第49話 蜂に似て異なるもの達
蛹から羽化したその姿は蝶のようでもあり、
それはどこか蜂に似ていて、しかし蜂というよりは蜻蛉であり、
更にいうのなら蜂になり損ねた蝶のような蜻蛉で、そのいずれでもない何かであった。
シンフォニアホーンフライ RANK A+ ツノトンボ系先天異常資質型上位モンスター。
再び『シンフォニア』の名を取り戻した音の悪魔が降臨した。
蜻蛉はドラゴンフライともいう。『ドラゴン』、それは力の象徴であるとともに高位の悪魔の化身である。
そしてツノトンボの学名は HYBRIS SUBJACENS WALKER。
HYBRISその意味は、『傲慢』、又は『色欲』。
そう、傲慢たる高位の悪魔、つまり魔王とは、すなわち、神話にかたられる氷結地獄の主の大罪を指すのだ。
ベルと最強たる『傲慢(superbia)』の魔王であるデュカリスとの因縁が引き寄せたのか、
彼の存在に近づきたいと願った結果引きずられるように歪んだのかはわからないが、
彼女はある意味蜂族に少しは近づいたのだ。あくまで見た目の上での話であるが。
音界の悪魔は背後にいるシロアリに振り向くことなく、ツノトンボ特有の翅を下し尾をあげた状態で佇んでいる。
彼女にとって振り向く必要などないのだ。
後ろから襲いかかるシロアリをまるで見えているかのようにほんの少しだけ空に浮きあがって躱し押さえつける。
成虫になっても彼女の眼は見えるようにならなかった。
だからもとより見ているのではない。見る必要もない。ただ、『聞いて』いるのだ。
押さえつけられたシロアリは必死にもがき何とか逃げ出すことに成功する。触角は一本失ってしまったが、
シロアリ自身もランクBの性能を持った高能力個体だ。
目の前の見た目は清楚でありながらも悪魔じみた何かが漏れ出ている虫ではあるが、
勝てない相手だとは思っていなかった。
其れに対して怒らせた様子もないので、いざとなったら逃げればいいと、そう、思っていた。
『悪魔じみた』という、直感に従って最初から逃げていればよかったのに。
知っている人も多いが
シロアリはアリではない。蟻の形に似ただけのゴキブリに近い別種。
つまりは似て非なるまがい物だ。
そう、『ベルと同じ』蜂族のまがい物である。
「今日は成虫になったばかりなので他のものになら恩赦を差し上げてもよろしかったのですが、貴女は駄目ですわ。
えぇ、決して、決してわたくしより蜂々してるとか、同族嫌悪とかそういうのじゃないのです。本当ですのよ?
ただ単純にこれ以上貴女の姿をもうこれ以上存在させておきたくないので、『おとなしく殺されてくださいますか』。」
シロアリはここにきて急激に膨れ上がった殺意に恐怖し逃げようとする。
しかし体は動かない。だがそれでもその抵抗力を持って『声』の拘束を振りほどく。そして再びその脚を前に出す。
………しかし、
「止まりなさい。」
再び脚が止まる。そうしている間にも魔王は背後からゆっくり、緩やかに、しかし確実にその距離を詰めてきている。
恐怖と精神力と火事場の馬鹿力で拘束を解除しまた再び前に進む。
……しかし、再び、
「止まりなさい。」
その脚は止まった。正しくは止まりかけていた。ゆっくりではあるがまだ確かに動いている。
しかし、
「止まりなさい。」
重ねるような声にまた完全に脚が止まってしまう。
動く、
止められる。
動く、
止められる。
動く、
止められる。
動く、
止められる。
其れを何度繰り返した後の事だろうか、
2匹の蜂族モドキの距離は再び零になっていた。
最後の抵抗とその高速振動する大顎でベルに襲い掛かった死神であったが、
それは脚2本で軽々と止められてしまう。傷の一つも付けられずに。
「高速振動する刃だとしても、同様に振動する者にとってはただの止まった刃ですわ。
流石にこの細腕でも、止まった刃で斬れるほどには弱くありませんの。」
冗談にもほどがある。周期と振幅を完全に一致させながらその大顎を閉じさせないように押し開いているのだ。
いくら振動に集中するがあまり顎を閉じる力が足りなくなっているとはいえ、
その振動を見切る、いや聴き切るなんて冗談だ。
是が冗談でなければ何が冗談だかわからないとシロアリは完全にパニックになっていた。
最大の武器である高速振動する大顎に細い足を軽く添えられたまま、
シロアリに悪魔が耳元で囁く。
「今度こそ、動かなくしてあげますわ。もう二度と動けないように…。
『止まりなさい』」その命の営みを。
ヴァイブレートソーターマイトはその顎の振動を暴走するかのように更に大きく更に早く、更に激しく振るわせると、
その大顎の間の付け根から裂けるように頭部が破裂した。
SHE GOT NEW SKILLS!!
シンクロ ビブラート 残滓再吸収 食の多様化 吸収効率上昇




