第46話 なりそこねたもの
指向性の音の衝撃波。
自分が音の使い手であるがために自分がされたことが理解できた。
一度ならず二度までも同じ相手に、しかも同じ力の使い手に負け、しかも見逃されたのだ。
生き延びれた安堵感とそれを感じた自分への屈辱、
しかしその怒りを自分の力に変え成長する事のできない無力感。
蜂であった頃とは違いすぎる性能。
かつて圧倒的な強者としてあっただけにそうでなくなったときには再び強くなろうとするか過去に縋り付くしかない。
ベルはどちらかというと後者だった。
ベルは幽鬼の如くふらふらと引き寄せられるように、
樹海に来た自殺志願者の如く、不確かで確かな足取りで森の奥に向かっていった。
森の奥には開けた場所が存在していた。
その場所は昼でもなお日の光が届かないが、しかし怪しく神秘的な青白い光が広がっていた。
ギンリュウソウ『モドキ』RANK B Aランクの高位植物モンスターであるギンリュウソウの亜種。
それがこのあたりを明るく照らしている正体であり、このあたりの主であった。
本種ギンリュウソウと比べれば多少くすんだ色をしているがそれでもなお
銀竜のような美しい白銀色に高い透明感を加えたような体。
地面から竜の頭が顔を出したような姿。そしてその大きさ。
グルルゥとうなる様は植物とはとても思えない。
涎のように蜜を花から垂らしながらその鎌首を侵入者に向ける姿はどちらかといえば寝床から出てきた『龍』に近いかもしれない。
ベルにとってランクにおいても格上の敵である。
しかしベルはかつて竜以上の力を持つ蜂であったのだ。
そのことによる無謀と焦りが彼女を戦闘に駆り立てた。
ギンリュウソウモドキへと慎重に距離を詰めていくベル。
しかしそこは既にギンリョウソウモドキの間合いであった。
ベルの足場が急速に崩れ、何やら粘着する糸のようなものが現れて脚に絡みだす。
ベルは咄嗟に振り払い躱すが、躱した足場にもその糸が湧き出てくる。
是こそがギンリュウソウ系の力。周囲の大地自体を自分の攻撃範囲とする強力な能力。
力を使用可能にするのに時間がかかるが、もともとその場を動かない種族だ。時間は多くある。
エリアに入ってきた敵を獲物にするという点ではある意味アリジゴクとも似ている。
近寄ってきた敵はその竜の頭部の様な花で喰らい、
離れた敵は地面から湧き出る糸のようなもので絡みつかせ、溶かし養分にする。
空を飛ぶものはもれなくクラスター状に弾ける種や粘着性の蜜による疑似ブレスで地に落とす。
定番の攻撃パターンだ。
ベルは地表ソナーでギンリュウソウモドキを補足しながらその周囲を円を描くように高速で移動し、
徐々にその輪を狭めていく。
ベルが移動した後の足場をベルの後を追うように糸が湧いては引いていく。
充分に距離を詰めもうすぐ飛び掛かろうかとしたとき、
ベルはあることに気付き、以前したように顎を支点に跳躍した。
その直後であった。地面全体から一斉に糸が湧いてきたのは。
空中に飛び上がったベルをギンリュウソウモドキは爆散する種で迎撃してきたが、たまたまその攻撃は外れた。
この一連の攻防でベルは気付いたことがある。
ギンリュウソウモドキが糸を地中から発生させる少し手前で地中で何かが結合し伸びあがってくるのだ。
その正体は菌糸。キノコのもととなる菌糸を即席の捕縛綱に変える。これがギンリュウソウモドキの攻撃の正体だ。
ギンリュウソウ系統は、キノコであり植物であり竜であるのだ。
自身の体の一部をあらかじめ周囲に散布しておき、自身の意思でその端末らに力を通し励起、結合させる。
そうやって糸を作り出していたのだ。
そのロジックはベルにはわからなくても、地中で糸が作られる瞬間を感知すれば伸びてくる前に躱しきれる。
次々と発生する菌糸を全て躱しギンリュウソウモドキの根元に辿り着き飛び上がりながら上方へ片顎を向け、
ギンリョウソウモドキの体を斬り上げる。竜の鱗のように茎に張り付いた葉がベルの斬撃を弾くが気にせず
ブレス攻撃を避けるために花の下の所で顎を突き刺す形で上昇を強引に止め、
今度は逆にもう片方の顎で斬りつけながら下降する。その際上昇時と同じく鱗葉が攻撃を弾くが、
上昇時と違い、何箇所か鱗を突き破りギンリュウソウモドキの茎を斬りつけられた。
ベルには脆くなっている箇所があるということぐらいしかわからなかったが、
ベルにもし目が見えていれば突き破った箇所だけ鱗の色が乾燥した茶色になっているのがわかっただろう。
力を一定の上限を超えて使いすぎた際に起こる枯渇現象、
平たく言えばギンリュウソウモドキは菌糸の励起や再生など、力を使いすぎると枯れてしまうのだ。
これが、亜種ギンリュウソウ『モドキ』の通常種ギンリュウソウとの最大の欠陥差異。
そのほかには大きく変わることが無いにもかかわらず、明確なランク差として認定される要因なのだ。
敵の攻撃をその硬い鱗のような葉で弾き続けることができる銀竜の如きものと、
敵の攻撃を喰らい続けていけば、鱗が輝きと強靭さを失い力を使いすぎれば枯れてしまうその『モドキ』。
繁殖力はモドキの方が高いが、そんなことはどうでもいい。
このギンリュウソウモドキはずっとモドキではない通常種になりたがっていた。
なまじ植物にしては高い知性を持ってしまったがゆえにその葛藤は生まれてしまったのかもしれない。
ベルがギンリュウソウモドキの攻撃を躱し、逆に攻撃を与える度にギンリュウソウモドキの鱗が
レンガから、乾燥した土くれになったかのように脆くなっていくのを感じた。
この時ギンリュウソウモドキの体は干からびた枯れ木の手前のような色にまでもう枯渇が進んでいた。
勝利パターンは見えました。このままいけば勝てますわ。ベルがそう思った時だった。
「GGGGUAAAAAAAOOOOOOOONN!!!!!!!!!」
その枯れ果てそうな体から振り絞るような咆哮が森の中に広がった。
『モドキではない真の力』を、
そう叫ぶようなギンリュウソウの咆哮と共に
周囲の木々が急速に干からびて枯れていく。
大地に生きる者から生命力を奪い上げる。これがギンリュウソウ種の力。
ギンリュウソウになりたかった『モドキ』と蜂になりたかったベルの死闘は結末へと至る。
ギンリュウソウ RANK A 属性 大地 土 金 氷 光 菌 植物 竜 弱点 日 電気 氷
銀竜の血を浴びた葉が変異したと言われるがその真偽は不明。
竜と植物が融合した混成種族という説の方がまだ信憑性がある。
植物でありながら、緑色は無く全身が透過性の高い白銀に輝いている。
花は竜の頭部のように葉は鱗のようになっている。
大地を伝い他者から生命力を奪うことができる。
この森には偶然生えたが本来は『菌糸の森』の主として存在する通常種の方が有名。
別にドラゴン系が最強種であるわけではないのだが、人にとっては強さの象徴となりえるのであろう。
モチーフはギンリョウソウ




