第19話 喧嘩
観客参加型コンテンツ『大虐殺』
今日も無慈悲なる指揮者が断末魔の絶叫を奏でる。
指揮者であるベルが脚を振るうとその先にいた生き物は切断され、弾け飛び、
不快な破砕音を立て即死し、死にきれず苦痛の叫びをあげ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ。
音の正体である空気の振動を使った衝撃。それが彼女の指揮棒。
オーケストラワスプ ノートワスプの進化系、それが彼女の今の姿である。
「お母様、大好きな蜂蜜ですよ…。」
その日の獲物を狩り尽くして巣に戻りいつものように両親の石碑に蜂蜜を注いでいると、
「お姉、何をしてるの?」
彼女の妹である蛹から孵ったスセリの声がした。
「巣の中のどこもがらがらだし、妹たち以外にはほんの少数しかワーカーがいないんだけど」
そういって成虫になったスセリはベルの後ろを覗き込む。
本来野生動物には存在しないはずの葬儀を見てスセリはなぜ、何が、どうやってはわからないが
何が起こったかはおおよそ理解できたのだ。
ベルと同じく異世界の人の前世を持つスセリは幼虫の頃はおぼろげであった記憶を徐々に取り戻し始めていた。
だが、焦燥したベルにはなぜスセリが墓石の意味に気付いたかなど考える余裕はなかった。
「見当はついたわ。……多分みんなが何かに殺された中お姉だけが生き残った。そんなんでしょ?違う?」
「……」
その通りであった。―――あったのだが母親がベルに向けた愛を少しでも分けてもらいたがっていた妹に言えるだろうか。
―――その機会は永久に失われた。自分のせいで、と。
「ちょっと、だまってないで何か言いなさいよ。そうなのっ!?、違うのっ!?」
言わなければならないのだろう。それが己の義務なのだから。
「えぇ、まったくもってその通りですわ。わたくし一匹を除きあなたたちを除く全員が死亡しました。」
ベルは思っていた。もともとスセリには良くは思われてはいないのだろうと。妹たちが自立できるまでは働き続けようとは思ったが、
一匹では厳しいであろうがスセリも成虫になった。ここでスセリの怒りを甘んじて受けて殺されるのもまた理ではないかと。
「お姉が…、あんたが腑抜けだったから負けたの?」
「……」
「何か言えって言ってんのよっっ!!」
「…えぇその通りですわ。わたくしを恨んでいますか?―――覚悟はできています。あなたに「―――っっばっかじゃないのっ!!
あんたがしっかりしてればお母様たちは死ななかった。
……………そう攻められれば満足?
他人に攻められるのが怖いから自罰的なやつって性質が悪いわ。只の弱虫よ。カッコ悪いにもほどがあるわっ。
…私達ははっきり言って強いわ。種族としてね。もちろんお母様もお父様もワーカーたちも。
それでも勝てなかったのよね?あんた一人で戦況が変わる?
自分は最善の選択を理解はしていた?
なんて、うぬぼれもいいところじゃない?」…スセリ……」
「お母様たちが勝てなかったのなら今度は私『達』がその仇を取ればいいじゃない。簡単なことよっ、違うのっ?
あんたはもっと掴み所のない人じゃなかった?そりゃあ見た目ほど余裕があるわけないのは識ってる、
実はお母様の愛情がまっとうでなかったのも何となく気づいてる。無関心なようでけっこう面倒見がいいのも知ってる。
あんたはいつものように私たちの姉として優雅に歌ってればそれでよかったのよっ。簡単なことじゃない。
――――もっとしっかりしてよ、…………か…お姉ちゃん。」
ベルは思い違いをしていたのだ。スセリは姉を嫌いになってなどはいなかった。ただちょっと焼きもちを焼いていたのと素直でなかっただけだ。
彼女にとって姉は新しい名の通り美しい音色をした自慢の姉だった。
この世界に生まれ落ちた時にはデュカリスの愛情以外はどうでもよかったと思っていたベルであったが、ようやく気付けたのだ。
「わたくしは…、こんなにも愛されていたのですね」
「なっ、何言ってんのよ、………今更じゃない。」
そういってスセリは必死に照れているのを隠そうとした。
つんつんでれでれ
ツンデレちゃんはちょろいんという風潮
音刃
高速振動する音の刃で敵を切断する技。