第17話 その背に背負うもの
当主としての最初の仕事
偶然にも前世の名字鈴廣に被った新たな名を得たベルであったが、
これはまだ序章も幕引きにも過ぎない。第1章の幕は無事サンコウチョウから逃げおおせて初めて降りるのだ。
サンコウチョウを注意深く探ったベルは、
まだ食べられていない蜂たちの死骸の中に影の薄かった父の姿があったのを見つけた。
母の遺骸を左側の脚に持ち直すとサンコウチョウの後ろで爆音を発生させた。
強力な爆音に一瞬ひるんだサンコウチョウであったが、
その向こうで何やら音が発生しているのを聞くといるであろう残党を喰らう為にそちらに向かっていった。
サンコウチョウがその場を去った隙にベルは父の遺骸を右側に抱え、
その場から音を発生させないように気を付けながらも急いで去った。
前世が日本人であったためであろう。
巣に何とか戻ったベルはまず最初に両親を穴に埋め、岩を破壊し加工した石片をその上に置き墓石とした。
それから、通常の働き蜂たちが巣の警備のための最小限しかしない中、ベルはたった1匹で三女以下の妹たちの世話をした。
ベルにとって一番苦痛であったのは妹たちの為に餌を狩ってくることでも、休みが無いことでもなく歌う暇がないことでもない。
「おかあさまたち まだかえってこないの~?」「あかあたまたちどこー?」
幼い妹たちにそう聞かれることであった。
だがそれでもベルは折れるわけにはいかない。
彼女の母が唯一為せたものを護らなくてはならないからだ。