外伝 天の音 その4
何年も時が過ぎ、コノハはハバチの成虫になっていた。
今日はアマネはコノハに独自の姉論と音楽論を話しながら時を過ごしていた。
「いい?真の音楽家は世界を聞くのよ。」
「私の一番はやっぱりスズネとヒビキネね。ってちょっと聞いてます?」
そんな帰りの途中だった。
普段は扶桑帝国から天奏高山帯に向かうときは東に向かうのだが、
道中東から西へ向かう戦闘機を何機か見かけたので扶桑帝国の西部に向かうことにした。
遥か上空から扶桑帝国の最西部のそのまた向こうの海を『聞く』。
すると耳障りな輸送機の音が聞こえてきた。
その様子を更に注意深く聞くとそれはかなりの数があることが分かった。
だが、無意味に墜落していく理由まではアマネには理解しきれなかった。
更に先に進んでいくと状況がアマネにもわかるようになってきた。
――――――――――――――∮∮――――――――――――――
「其処の輸送機、今すぐ引き返せ。この空域は扶桑帝国のものである。」
扶桑帝国の哨戒機はお優しいことにそう警告した
しかし、相手は受けた優しさに仇で返すことで有名なエラインダーの民だ。
数秒間の沈黙の後に空対空ミサイルを持って返答した。
「聞こえないのか、繰り返す。今すぐ引き返―――――――うわあぁぁぁぁ。」
ツーツーツー
哨戒機からの無線情報はそれっきり本部に届くことは無かった。
その後輸送機から何人ものCMCHが飛び降り、降下しては住民を虐殺したり強姦していた。
むしろ途中からは強姦の為に虐殺しようとしていた。
同時に幾つもの場所から火の手が上がっていた。
エラインダーの戦闘機が爆撃を開始していたのだ。
「佐藤っ!!! 糞っ!!あの×××××共め。司令っ。出させてください。」
「西風君。直ぐに熱くなるのは君の悪い癖だ。それでも最新兵器の操縦者かね。」
「しかし、奴は俺の同期をっ。――――すみません。取り乱しました。」
「いいぞ。」
「……はっ?」
「行っていいぞと言っている。」
「はっはい。」
「何も佐藤君の死に怒りを覚えているのは君だけではない。
ところで、佐藤君が婚約をしていたのは聞いているかね?」
「はっ、聞いております。相手の方は存じ上げませんが。」
「ふむ、ところで中々佐藤君は見どころがある男だったとは思わんかね?
女性慣れしてもおらず多少垢抜けてない所はあるが、職務にも真面目で誠実な男…だった。
……きっと家庭を持てば、妻とも…仲良くやって行けたであろう。」
「その通りです。」
「私の義理の息子になるかも知れない男だった。」
「…御嬢さんと。」
「職権乱用だとも、不必要な秘密の暴露だともいわれるだろう。
だが、一向に構わん。3等空佐西風勇、貴殿に命じる。
佐藤2尉の墓標に花を咲かせてやれ。…とびっきりデカい花をだっ。」
「了解しましたっ!!!。西風3佐出ます。」
西風が出発し、緊急を告げる様々な信号が飛び交う中、更に別の警報が響く。
「不明の飛行物体が一つ、現在識別中、
不明の飛行物体が一つ、現在識別中、――――スコアホーンワスプ?
まっ、『暴食』魔王の眷属です。」
「糞、2面攻勢か、構わん、魔王そのものではない。
戦闘機全機発進準備、目標は当初鰓張衆国全航空機。対音響処置をしておけ。
当初全機を持って警戒態勢。上手く魔王の眷属をやり過ごして奴らにぶつけてやれ。
各戦闘機はその後心神と合流後残った勝利者を一気に叩け。
それまで、今だ避難せず残った住民たちを護れないのは心苦しいだろうが、
それは陸の奴らに任せよう。
レーダー系は1つを残して眷属の方に全て向けろ。奴の動向が最大の懸念事項だ。
西風、お前は目標を変更し当初魔王の眷属の方へ向かえ。座標は今から送る。」
司令がそう指示を出していた時だった。
「あーあーあー聞こえます?というか人間の言葉ってこれであっているの?」
「しゃ、喋った!? 司令っ、魔王の眷属がこちらに意思の疎通を試みています。」
煩いほどの音量でないどころか、どちらかというと囁くような美しい声が基地全体に響き渡る。
異常事態に本部班勤務員が思わず驚きを隠せずにきょどったまま司令にその意思を伝える。
「解かっている。人間の技じゃない。
―――――――――――――魔王の眷属よ、聞こえている。要件はなんだ。」
「ヒト如きが偉そうね、まぁいいわ。貴方達奴らから手を引きなさい。」
「なっ………ふむ…、ではお前の敵は我々ではなく奴らだと?」
「ヒト如きが口のきき方を弁える事ね。
私がお母様に倣ったことに寄れば、人の言語の使い方からして結構貴方の口のきき方は失礼よ。
―――――――――――――――――――――――絶滅したいの?」
「…失礼した。」
「奴らのやり方は眼に余るわ。ヒト如きと手を組んで、
あまつさえ融合なんてことまでしてまで。その目的がメスを同意なく襲うこと?
誇りもなく、美学もない。あるのは性欲と欺瞞だけ。
人間の目にはそれなりの容姿なのでしょうけど、私達の『耳』には醜さが透けて『見える』わ。
この下種どもが。
もう一度言っておくわね。手は出さないで、
虫の恥は、虫で削ぎます。
後、訂正しておくわね。
其処の輸送機、今すぐ墜落しろ。この空域は『まつろわざるもの』のものである。
……いつから貴方達人間のものになったのかしら?この土地は。」
急に威圧力を増した声で語りだしたアマネに慄く扶桑帝国民たち。
そんなアマネに接近をしようというものがいた。
「言っておくけど私に『奇襲』は通用しないわよ。」
「喋る虫って生で見ると凄いな。」
接近したのは西風だった。
「奇襲をする予定はなかった。」
「どうかしらね、あわよくば…とは?」
「…その命令はまだ受けていない。」
「まだ、ね。腹芸はできないようね。後喋っているのではなくヒトに聞こえる音を作っているだけ。
あくまで広域に対する空気振動。
……と言ってもわからないでしょうね。」
「その知能…本当に虫なの――――――――――――かはぁっ。」
西風勇はその身に強烈な不可視の衝撃を受けた。
「知能が高いのはヒトだけ…?やはりそんな思い上がりの激しい生き物は絶滅させてしまおうかしら。」
「すっ済まなかった。頼む、見逃してくれっ。」
「…それは貴方を?それとも人類を?」
「人類だ。」
「即答ね。その意気に免じて一度だけ失礼を許してあげましょう。」
「貴方は帰っていいわよ。全部、――――――――――――終わらせるから。」
勇は、その存在感に一瞬眷属などではなく、彼女自身が魔王なのではないかと言う妄想にとらわれた。
だがしかし、彼にも退けないものがある。
「俺は、敵を壊滅せよとの命令を受けている。その命令は、解除されてはいない。」
「見逃すのは一度だけ、そう言わなかったかしら?」
「降りてきた化け物が虫と融合した人間だっていうのなら、
奴らの半分は人間だ。人の恥は人で削ぐ。」
「……っ勝手にしなさい。」




