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挿話 信仰

ハルマー、クエルダ兄弟のちょっと後くらいの話。

天奏高山帯。高き館に住まう天使を信仰する集落隊が存在する地域であり、

大いなる『天使』への畏怖とそのもたらす巨大蟹などの残骸から富を得ている地域である。


そんな天奏高山帯へ唯一たる絶対神を信仰する神聖教団の布教隊がやってきた。

彼らはここに来るときこう思っていた。

愚かなる邪教を信じる民達を正しき信仰へと導けば改宗者達に歓喜を持って迎えられるであろう、と。

勿論、彼らを派遣した者達の中には様々な思惑があり、

信仰の証明として、巨大蟹の素材などを献上させようなどと色々邪なものはあったのだが、

布教隊の面々は皆真っ直ぐな宗教的熱意に溢れていた。


当初布教隊が最初についた集落の人々は旅人達を歓迎したが、

布教の話となると難しかった。いや効果は無かったといっても正しいのであろう。


布教隊は話があると言って集落の多くの人を集めることには成功したが、

その懐柔には成功しなかった。


布教隊は説く。自分たちの信仰がどれだけ正しいのかを。

神の愛を。人々の理想の世界を。やがて神の代行者たる勇者が魔王を倒しに来ると。

皆が救われる。正しき信仰へ改宗せよと。



しかし聴衆は皆白けた顔をしていた。

そのうち一人が聞いた。

「ところでその話の要点はなんだ?」

「我々の信仰こそが正しいのだ。」

「正しい、…それだけか?」


「……それだけ?…………それこそが大事なのではないか?」

「正しいことの何が大事なのだ?」

それは長年自分たちを欺瞞し続けてきたもの達が見出した答え。


「…正しいのだぞ?」

「正しくて恩恵を得られるのか?正しくて奪われないのか?正しくて勝てるのか?

……正しくて、生き残れるのか?」


「なっ!?」


「ならば我々は我々の神を信じる。我らが神は我らを気まぐれに陥れるかもしれん、殺すかもしれん。

だが、我々は我らの神によってこの土地で富を築いてきた。それを無益な信仰の為には捨てられん。」

とっさに相手の唯一神に対する張り合いの為か、彼は『天使』を『神』に格上げしてしまった。


「ばっ、罰が当たるぞ!?」

「罰なら我らが神も与えられる。…それより、お前たちの神は罰しか与えられんのか?」


「そんなことはない。様々な恵みを――」

「その恵みとはなんだ?」


「……………信仰の…喜びだ…。」

「何だそれは具体的なものはないのか?」



「…………。」

「我らの神は巨大なモンスターを倒して恵んで下さるぞ?」


「………。そっそうだ。悪を倒す勇者や勇者に与えられる神の恩恵こそが恵みだ!!」

「…我々に直接恵んで下さるものはないようだな。

―――――――――それに勇者こそがそちらの神の恵みというなら、

その勇者が歯が立たない我らの神の方が尊いということに他ならない。」




高き館に住まう主。暴風と恵みの神の信仰の始まりである。

ベル 英語で鈴、フランス語で美(女) バビロニア的意味で主(セム語でバアル最も有名なのは某宗教に悪霊の君主にされた豊穣神)。その全部が由来。まぁ今更だけど。


スセリ 日本神話の国造りの神オオクニヌシノミコトの正妻であり、

蟲を操る力を持つスセリ姫が由来。ほんと今更だけど。

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