勇者と魔王 暴食の魔王
「…やったか?」
魔王から聞こえてくるうめき声に透流は勝算を見出す。
しかし、
「く、くふふふふふふ。面白いですわね『ニンゲン』って。個体で無く技術により全体で進化する。
わたくし達には無くなった発想ですわ。
愉しませてくれたお礼に、わたくしも少しだけ本気を見せてあげますわ。」
「っ、まだだったかっ!!」
「ところで『ソレ』の力はその程度でしたの?」
「黙れっ。」
「わたくし、黙れって言われるの、結構嫌いなんです。」
魔王はここにきて初めて飛び道具を使ってきた。
透流の必殺技に似ている『音』の刃だ。
透流はそれをアマノハバキリで切り捨てる。
時折『歌』で透流に作用しようとして来たり強風で透流の体を崩しにかかって来るが
脳と直結したアマノハゴロモの通信システムと空調システムでその効果を著しく下げる。
しかし、それを行っている最中はクロックアップのリソースが下がり反応が鈍くなる。
ここにきてようやく伊佐美 透流は魔王ベル・アルモニカが『歌う魔王』などと言われているのがわかった。
その音色は凶器。
軍学校時代に習った言葉が思い出される。
ならば、と透流は更に上昇しつつ、戦闘の舞台の高度を上げる。
上空高みにまでのぼり大気が薄まる。
「現状からさらに空気を現在の何%まで奪える?」
透流はシステムのCPUに問う。
<30%です>
「15%だ15%にまで薄めろ。」
<不可能です>
「その不可能を起こせと言っているんだ。」
空調システムの限界以上にに引出し、空気がほぼ無ければ、『音』も『風』も満足には起こせない。
歌う魔王も羽をもがれた鳥に同じ。
大気が少しずつ薄まる。
薄まった大気では透流も魔王も飛ぶのが精いっぱいだが問題はない。
透流は薬物をケーブルからさらに投与し、その意識の一部と内蔵コンピューターの接続量を更に強める。
歌えなくなった魔王などただの強力な飛行モンスターだ。
対処はずっと楽になる。
透流はそう思っていたのだが、
魔王は相変わらずどこか余裕そうだ。
「『ヒト』にしてはなかなかやりますわね。そうです、貴方わたくしの下につきません?
ヒト種の『魔王』になれるかもしれませんわ?」
「はっ、化け物が、人をあんまり舐めるな。」
間髪入れずに透流は魔王の誘いを蹴る。
「奪うことしか知らない化け物達に、皆を殺したお前につくはずがないだろう。」
そう透流がつづけた時急に魔王が嗤いだした。
「ふふふ、ふふふふ、ふふふふふふふ。」
「何へらへらしている。友を、家族を、仲間を殺されて赦すと思うなよ、この虫がっ!!」
ここにきて初めて魔王の口調からからかうようなものがなくなった。
「何か御勘違いをしておいででは?あなたたちだけが被害者かのような口ぶりで…。わたくしも赦すつもりはありませんわよ?
―――――あなたたちヒトと星が、巣を護ろうとしたわたくしの可愛い『妹』を封印してくれたことはね。――解放」
ベル・アルモニカの姿はそう変わったように見えないが、その中身が異質になっていくのは透流にも分かる。
世界から急速に力が喰われていく、森が枯れ木になり先ほどまで眼下にいた様々なモンスター達がすべて萎びて灰になる。
「申し遅れましたが、わたくし『暴食の魔王』をしているベル・アルモニカと申します。―――あなたも、いただきますわ。」




