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第八話 選ばれる世界、選ぶ人間


 星狩りの本拠地は、

 谷の底に

 あった。


 


 人工的に削られた岩壁。

 星図を刻んだ外郭。


 


 祈りではない。

 計算のための場所。


 


「……綺麗」


 


 思わず、

 そう

 呟いてしまった。


 


「秩序の美しさよ」


 


 ルナリアが

 言う。


 


「そして、

 人を切り捨てる

 美しさ」


 


 私は、

 胸の奥を

 押さえた。


 


 ここに来てから、

 感覚は

 さらに薄い。


 


 指先は、

 もう

 何も

 伝えてこない。


 


 それでも、

 足は

 止まらなかった。


 


 奥へ進むと、

 巨大な天文装置が

 姿を現す。


 


 星を、

 地上に

 縫い止めるための

 装置。


 


「星を、

 固定する?」


 


 ディーンが、

 震える声で

 言う。


 


「そんなことをすれば、

 世界は――」


 


「安定する」


 


 現れたのは、

 外套の女。


 


 星狩りの

 指導者だった。


 


「揺らぎは、

 災厄を生む」


 


 その視線が、

 私に

 向く。


 


「精霊使い。

 君の共鳴は、

 星を

 狂わせた」


 


「だから、

 止める?」


 


「だから、

 利用する」


 


 その言葉に、

 精霊が、

 わずかに

 反応した。


 


 ――彼らは、

 正しい。


 


 頭の中で、

 声が

 響く。


 


 ――星は、

 安定を

 求めている。


 


 私は、

 目を

 閉じた。


 


「……もう、

 やめて」


 


 精霊の声が、

 止まる。


 


「嘘をついて、

 私を

 守ったつもり?」


 


 沈黙。


 


「でも、

 あなたは、

 私を

 見てなかった」


 


 胸が、

 きりりと

 痛む。


 


「私は、

 役目じゃない」


 


 目を

 開く。


 


「感じることを、

 失ってでも、

 選びたいことがある」


 


 精霊が、

 初めて、

 迷う。


 


 ――それは、

 非合理だ。


 


「分かってる」


 


 私は、

 微笑んだ。


 


「でも、

 それが、

 人間だよ」


 


 その瞬間、

 何かが、

 ほどけた。


 


 精霊の声は、

 消えなかった。


 


 ただ、

 命令でも、

 保護でもなく、


 


 対等な距離に、

 下がった。


 


 再定義。


 


 共鳴は、

 もう

 暴走しない。


 


 その代わり、

 力は、

 確実に

 弱くなった。


 


 ――それでいい。


 


 私は、

 そう

 思えた。


 


 そのとき、

 アルベルトが、

 一歩

 前に出た。


 


「彼女は、

 奪わせない」


 


 星狩りの女が、

 笑う。


 


「理由は?」


 


 アルベルトは、

 一瞬、

 言葉を

 探し、


 


 そして、

 はっきりと

 言った。


 


「俺は、

 守れなかった」


 


 場が、

 静まる。


 


「昔、

 力が足りなくて、

 選べなかった」


 


 彼は、

 私を

 見ない。


 


「だから、

 今は

 選ぶ」


 


 剣を、

 構える。


 


「彼女が、

 自分で選んだ道を」


 


 その背中が、

 わずかに

 震えていた。


 


 私は、

 初めて、

 彼の弱さを

 見た。


 


 そして、

 それを

 美しいと

 思った。


 


 星狩りの女は、

 一歩

 退く。


 


「……理解した」


 


 理解は、

 同意ではない。


 


 装置が、

 起動を

 始める。


 


 星が、

 軋む。


 


 私は、

 前に

 出た。


 


 感じない手で、

 胸に

 触れる。


 


 ここは、

 まだ

 痛い。


 


 だから、

 私は

 私だ。


 


「星は、

 縛れない」


 


 静かな

 声。


 


「生きているものを、

 止めたら、

 世界は

 死ぬ」


 


 星巡りの書架は、

 ここで、

 敵に

 なった。


 


 でも、

 私は

 後悔しない。


 


 精霊と、

 完全には

 分かり合えなくても。


 


 星に、

 嫌われても。


 


 私は、

 選んだ。


 


 それだけが、

 失われなかった

 唯一の

 感覚だった。


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