第七話 失われていく日常、それでも残る痛み
朝の光が、
まぶしくない。
それが、
最初に気づいた
異常だった。
目は開いている。
景色も見える。
でも、
光の温度が、
分からない。
焚き火のそばで、
私は湯を
口に運ぶ。
……
味がしない。
喉を通る感覚だけが、
かろうじて
残っている。
「フィオ?」
ミカの声。
「……なに?」
「今、
砂糖入れたよね?」
私は、
手元を見た。
入れた。
はずだった。
でも、
甘さは
ない。
「ごめん。
ちょっと、
調子悪くて」
嘘が、
増えていく。
それが、
一番
つらかった。
歩く。
転ばない。
剣も
振れる。
でも、
地面の硬さが、
分からない。
風が、
冷たいのか、
暖かいのか、
判断できない。
世界が、
薄紙一枚向こうに
あるみたいだった。
「……精霊」
夜、
一人になって、
私は
呼びかけた。
「嘘を
ついたよね」
しばらく、
沈黙。
やがて、
声が返る。
――必要だった。
「何が?」
――これ以上、
君を
壊さないため。
私は、
笑って
しまった。
「もう、
壊れてるよ」
声が、
震えた。
「感覚が、
消えていく」
「このまま、
何も感じなくなったら、
私は……」
――それでも、
生きている。
その言葉に、
胸が、
はっきりと
痛んだ。
「精霊は、
生きていれば
いいの?」
――役目を
果たせばいい。
決定的な、
違い。
私は、
膝を
抱える。
「私を、
道具に
しないで」
――君が
選んだ。
その一言で、
何かが、
ぷつりと
切れた。
「……もういい」
決裂は、
すぐそこだった。
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星狩り視点・断章
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星は、
秩序だ。
揺らいでは
ならない。
だが、
精霊使いは、
星を
歪める。
感情で、
世界を
動かす存在。
危険で、
非合理だ。
だから、
管理する。
壊れる前に、
壊す。
彼女が、
代償を
払っている?
当然だ。
力とは、
等価交換だ。
星を動かすなら、
人の感覚程度、
安い。
それが、
世界を守る
最短の道。
――そう、
信じている。
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夜明け前、
私は
立ち上がる。
世界は、
相変わらず、
遠い。
でも、
心の奥に、
まだ
痛みがある。
それだけが、
救いだった。
感じられるうちは、
私は、
私だ。
精霊と、
分かり合えなくても。
星狩りに、
否定されても。
私は、
私のまま、
進む。
それが、
崩れた日常の中で
見つけた、
たった一つの
答えだった。




