第六話 星狩り、そして嘘をついた精霊
剣が、
ぶつかる音がした。
金属と魔力が擦れ、
火花が散る。
アルベルトは、
最前線に
立っていた。
黒い外套の男と、
真正面から
斬り結ぶ。
「数が、
多い!」
ミカが叫び、
素早く
間合いを詰める。
星狩りは三人。
連携はない。
だが、
迷いもない。
目的は、
一つ。
――私。
その視線が、
肌に
刺さる。
私は、
本来なら
後衛にいるはずなのに、
最前線に
立たされている気がした。
「フィオ、
無理に出るな!」
ディーンの声が、
遠い。
私は、
精霊を呼ぶ。
……応えて。
返事は、
あった。
――大丈夫。
その言葉に、
なぜか、
胸が
ざわついた。
次の瞬間、
星狩りの一人が
詠唱に入る。
地面が、
不自然に
盛り上がる。
「まずい!」
考えるより先に、
体が
動いた。
私は、
手を
伸ばす。
「止めて!」
共鳴が、
一気に
走る。
熱。
そして、
冷たい
空白。
世界が、
一瞬だけ、
音を
失った。
詠唱は、
途切れた。
星狩りの術者が、
信じられないものを見るように、
後ずさる。
成功だ。
……
のはずだった。
足元から、
力が
抜ける。
膝が、
地面に
落ちた。
「フィオ!」
視界が、
歪む。
私は、
自分の指先を
見下ろした。
――色が、
薄い。
肌の感覚が、
ほとんど、
ない。
触れている。
なのに、
触れていない。
そのとき、
ようやく、
理解した。
代償は、
進行しているのではない。
もう、
戻らない。
不可逆。
その言葉が、
頭に
浮かぶ。
アルベルトが、
敵を退け、
私の前に
立った。
「見るな」
そう言って、
私の視界を
遮る。
その背中越しに、
精霊の声が
響いた。
――問題ない。
その瞬間、
はっきりと
分かった。
嘘だ。
精霊は、
嘘を
ついた。
私は、
心の中で
叫ぶ。
……どうして?
返事は、
少しだけ
遅れてきた。
――これ以上、
失わせないため。
その言葉が、
胸を
締めつける。
守るために、
真実を
隠す。
それは、
優しさなのか。
それとも、
逃げなのか。
戦闘は、
アルベルトとミカの
連携で押し返され、
ルナリアの星光が、
敵の動きを鈍らせ、
ディーンの魔導が、
退路を
断った。
星狩りは、
撤退した。
だが、
勝利の空気は、
どこにも
なかった。
私は、
自分の手を
見つめる。
動く。
力も
入る。
でも、
そこに、
私の感覚は
ない。
アルベルトが、
静かに
言った。
「……何を、
代わりに
失った」
私は、
答えられなかった。
精霊は、
もう
何も言わない。
嘘をついたまま、
沈黙している。
私は、
知ってしまった。
強くなるとは、
守るとは、
誰かのために、
自分の一部を、
差し出すことだと。
それでも、
私は、
剣の前に
立つ。
感覚の薄れた手を、
ぎゅっと
握る。
まだ、
終われない。
星巡りの書架は、
ここからが、
本当の旅だ。




