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第五話 星の破綻と、奪われ始めた感覚


 最初の異変は、

 本当に

 小さなものだった。


 


 


 朝、

 目を覚ましたとき、

 自分の指先が、

 少しだけ

 遠く感じた。


 


 


 動かせる。

 力も

 入る。


 


 でも、

 感覚が、

 一枚、

 隔てられている。


 


 


「……気のせい、

 だよね」


 


 


 そう呟いた声が、

 自分の耳に、

 うまく

 届かなかった。


 


 


 野営地では、

 すでに皆が、

 準備を

 していた。


 


 


「フィオ、

 顔色が悪い」


 


 ミカが、

 心配そうに、

 覗き込む。


 


 


「大丈夫。

 ちょっと、

 寝不足なだけ」


 


 


 嘘だった。


 


 でも、

 真実を、

 どう説明すればいいか、

 分からなかった。


 


 


 歩き出してすぐ、

 違和感は、

 はっきりした。


 


 


 精霊の声が、

 遠い。


 


 


 聞こえないわけじゃない。

 でも、

 輪郭が、

 ぼやけている。


 


 


 そのとき、

 ルナリアが、

 足を止めた。


 


 


「……おかしい」


 


 


 彼女は、

 星盤を広げ、

 何度も、

 角度を変える。


 


 


「星が、

 ずれている」


 


 


「ずれ?」


 


 ディーンが、

 即座に

 反応する。


 


 


「配置そのものが、

 破綻しかけている」


 


 


 ルナリアの声は、

 珍しく、

 硬かった。


 


 


「原因は、

 分かる?」


 


 


 彼女は、

 私を

 見た。


 


 


「あなたの共鳴よ、

 フィオ」


 


 


 胸が、

 静かに

 沈む。


 


 


「精霊との接触で、

 本来独立していた

 星の軌道が、

 引き寄せられている」


 


 


「それって……」


 


 


「世界にとって、

 良い兆候ではない」


 


 


 はっきりとした

 警告。


 


 逃げ場は、

 なかった。


 


 


 その直後だった。


 


 


 風が、

 切り裂かれる音。


 


 


 アルベルトが、

 私を

 突き飛ばす。


 


 


「伏せろ!」


 


 


 次の瞬間、

 地面に、

 深く突き刺さる、

 黒い刃。


 


 


 人影が、

 遺構の影から、

 姿を

 現す。


 


 


 揃いの外套。

 顔は、

 布で

 隠されている。


 


 


「精霊碑に、

 触れた者がいる」


 


 


 低い声。


 


 感情が、

 ない。


 


 


「対象、

 精霊使い」


 


 


 私を、

 見ている。


 


 


 ルナリアが、

 小さく、

 息を吸う。


 


 


「……星狩り」


 


 


「知っているのか?」


 


 アルベルトが

 問う。


 


 


「星の異変を、

 力として、

 利用する集団」


 


 


 ディーンが、

 歯を

 食いしばる。


 


 


「最悪だ。

 理論を、

 力で証明する連中だ」


 


 


 そのとき、

 私は

 気づいた。


 


 


 恐怖より先に、

 身体が、

 反応しない。


 


 


 足が、

 重い。


 


 


 指先の感覚が、

 さらに、

 薄れていく。


 


 


 ――代償は、

 始まっている。


 


 


 アルベルトが、

 私の前に

 立つ。


 


 


「下がれ」


 


 


 その背中が、

 やけに、

 大きく見えた。


 


 


 私は、

 唇を

 噛む。


 


 


 守られるだけでは、

 終われない。


 


 


 精霊の声を、

 必死に、

 探す。


 


 


 遠く、

 かすかに、

 それは

 応えた。


 


 


 ――急げ。


 


 


 何を失うか、

 まだ、

 分からない。


 


 


 でも、

 立ち止まれば、

 すべて失う。


 


 


 星が、

 きしむ音が

 した。


 


 


 それは、

 この旅が、

 もう後戻りできない、

 場所に来た、

 合図だった。


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