第四話 代償を払うという選択
その日、
空は
曇っていた。
星が見えない昼間は、
ルナリアの表情も、
少しだけ
硬い。
「今日は、
やめておいた方がいい」
彼女は、
珍しく
断定した。
それでも、
私は、
前に出る。
「……やります」
言葉にした瞬間、
胸が
震えた。
怖い。
でも、
昨日と同じ場所に
留まる方が、
もっと
怖かった。
精霊碑の前で、
私は
深く
息を吸う。
命令しない。
縛らない。
ただ、
向き合う。
「……あなたたちを、
理解したい」
声は、
震えていたと
思う。
返事は、
すぐには
来なかった。
代わりに、
頭の奥に、
映像が
流れ込む。
――――――――
焦げた
石。
砕けた
魔導具。
人が、
倒れている。
その中心に、
若い男が
立っていた。
――ディーン。
まだ、
今より
ずっと
若い。
彼は、
叫んでいる。
「数値が合わない!
理論上は――」
次の瞬間、
光が
爆ぜた。
――――――――
「……っ!」
私は、
思わず
膝をついた。
「フィオ!」
アルベルトが、
即座に
支える。
その腕は、
思ったよりも、
温かかった。
「今の、
見えた?」
ディーンが、
唇を
噛みしめている。
「……見せられた、
だけだ」
彼は、
静かに
語り始めた。
「昔、
精霊を、
式で
完全制御しようとした」
声に、
後悔が
混じる。
「結果、
研究施設は
消えた」
「仲間は――
戻らなかった」
精霊は、
黙って
聞いている。
私は、
やっと
分かった。
彼が、
私を
怖れていた
理由を。
「だから、
制御できない力を
否定した」
ディーンは、
そう言って、
目を
閉じた。
「……正しかったと、
思っていた」
そのとき、
アルベルトが
口を開く。
「正しさは、
一つじゃない」
彼は、
私を
見る。
「選ぶ覚悟が、
あるかどうかだ」
私は、
精霊碑に、
もう一度
触れた。
「私が、
代償を
払う」
精霊の声が、
初めて、
重ならずに
響く。
――受け取るなら、
失う。
次の瞬間、
体の奥から、
何かが
抜け落ちる
感覚。
視界が、
少しだけ
暗くなる。
代わりに、
精霊の姿が、
はっきりと
見えた。
形はない。
けれど、
確かに、
そこに
いる。
共鳴は、
成功した。
でも、
私は
知っている。
これ以上使えば、
何かを、
取り戻せない。
アルベルトが、
そっと
言う。
「無理は、
するな」
その一言が、
胸に
残った。
強くなることは、
失うことだ。
それでも、
私は
進む。
星巡りの書架の
一員として。
そして、
精霊使いとして。




