第二話 精霊碑は理解者を待つ
その遺構は、
地図には
載っていなかった。
崩れた石柱。
半ば土に埋もれた
石板。
誰かが、
意図的に
忘れ去った場所。
そんな印象だけが、
残る。
「……ここ、
変です」
そう口にしたのは、
私だった。
理由は、
説明できない。
ただ、
胸の奥が、
ひどく
ざわつく。
石に、
触れられている
気がした。
「精霊の気配か?」
アルベルトが、
低く問いかける。
私は、
小さく
うなずいた。
「声が、
重なってる……」
悲しみ。
怒り。
それから――
長い孤独。
ディーンは石板を見て、
首をかしげた。
「魔法陣はない。
契約式の痕跡も
不明だ」
「でも、
ここに
何かある」
私は、
無意識に、
前へ
出ていた。
その瞬間、
ルナリアが
静かに言う。
「フィオ、
あなたの星が、
今、
揺れている」
「……揺れる?」
「ええ。
本来、
交わらない軌道が、
一瞬、
重なった」
その声は淡々として、
否定の余地が
なかった。
私は、
石碑の前に
立つ。
表面は、
冷たい。
でも、
拒絶は
感じない。
「……私、
聞いても
いい?」
答えは、
なかった。
けれど、
風が
止んだ。
次の瞬間、
視界が
白く弾けた。
――――――――
アルベルトは、
その光を見た瞬間、
剣に
手をかけた。
反射的な
行動だった。
だが、
敵意は
感じない。
問題は、
フィオだった。
彼女は、
石碑に
触れたまま、
動かない。
細い肩が、
わずかに
震えている。
危険だ。
そう判断しながら、
足が
止まる。
――踏み込めない。
彼女の周囲だけ、
空気が
違った。
守られている。
そんな感覚。
アルベルトは、
かつて
見たことがある。
理屈を
超えた力を。
恐れられ、
排除され、
それでも、
世界を
救った者を。
「……やっぱりだ」
彼女は、
弱いんじゃない。
まだ、
誰にも
触れられて
いないだけだ。
光が収まり、
フィオは、
その場に
崩れ落ちた。
駆け寄った瞬間、
彼女が
小さく
つぶやく。
「……待ってた、
って……」
その言葉に、
ルナリアが
目を細めた。
「やはり」
「何が
分かったんだ」
ディーンの問いに、
ルナリアは
星盤を
閉じる。
「精霊は、
命令を
待っていたのでは
ない」
「理解者を、
待っていたのよ」
焚き火もない
昼の遺構で、
なぜか
風が、
やさしく
吹いた。
フィオは、
まだ、
自分が
何を
受け取ったのかを
知らない。
けれど、
星は、
もう
示している。
この出会いが、
星巡りの書架の
運命を、
書き換えることを。




