第十四話 (最終話)秩序が追いつかなくなった理由
夜は、
相変わらず、
何も感じなかった。
焚き火のそばに座っても、
熱は伝わらない。
星を見上げても、
冷たさも、
遠さも、
分からない。
それでも、
私は空を見る。
見なければ、
いけない気がした。
「……眠れない?」
アルベルトが、
少し離れたところから
声をかけてくる。
「うん」
それ以上は、
言わなかった。
言えば、
慰められる。
でも、
今は、
慰めが欲しいわけじゃない。
私は、
自分の手を見る。
白い。
色が薄いわけじゃない。
感覚がないだけだ。
それなのに、
私はこの手で、
世界に触れてしまった。
街の噂が、
耳に入る。
星がずれた。
夜泣きが増えた。
季節が合わない。
誰も、
私の名前を知らない。
それでも、
私の選択の
結果だ。
逃げ場はない。
精霊は、
黙っている。
もう、
嘘もつかない。
守りもしない。
ただ、
そこにいる。
それが、
今の距離。
「……ねえ」
私は、
心の中で
呼びかける。
「世界が、
壊れたら、
どうするの?」
返事は、
すぐに来なかった。
やがて、
静かな声。
――世界は、
壊れていない。
「変わっただけ?」
――選択が、
増えた。
私は、
息を吐く。
「それ、
いいこと?」
――危険だ。
正直だ。
それが、
少しだけ、
救いだった。
私は、
理解した。
精霊は、
世界を守りたい。
私は、
誰かを守りたい。
目的は似ていて、
でも、
優先順位が違う。
それでも、
もう離れられない。
私が触れたから。
アルベルトが、
隣に座る。
何も言わない。
ただ、
同じ空を見ている。
私は、
ようやく口を開いた。
「私ね」
「世界を、
背負っちゃった」
冗談みたいな言い方。
でも、
本音だった。
アルベルトは、
少し考えてから
言う。
「背負ったんじゃない」
「踏み込んだんだ」
違いは、
小さい。
でも、
意味は違う。
私は、
うなずいた。
「戻れないね」
「戻らなくていい」
即答だった。
私は、
少しだけ笑う。
感じなくても、
笑える。
それを、
初めて知った。
世界は、
私を中心に
回っていない。
でも、
私の選択は、
世界に届く。
それが、
怖い。
でも、
もう目を逸らせない。
私は、
星を見上げる。
星は、
何も言わない。
でも、
逃げもしない。
――責任とは、
罰じゃない。
ふと、
そんな言葉が
浮かんだ。
選んだ先で、
立ち続けること。
感じられなくても、
揺らいでも、
それでも、
選び直すこと。
それが、
私の役目だ。
精霊の声が、
わずかに
重なる。
――同行する。
命令じゃない。
契約でもない。
ただの、
意思表示。
私は、
うなずいた。
「……ありがとう」
その言葉に、
意味があるかどうかは、
分からない。
でも、
私は言った。
世界を背負うというのは、
孤独になることじゃない。
誰かと並んで、
選び続けることだ。
星巡りの書架は、
静かに進む。
もう、
元の場所へ
戻るためじゃない。
変わってしまった
世界の中で、
それでも
間違えないために。
私は、
歩き出す。
感じない足で。
それでも、
確かな意思を
抱いたまま。




