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第十三話 (世界側視点)星がずれた日の街


 最近、

 星の話題が増えた。


 


 酒場でも、

 市場でも、

 誰かが必ず

 空を見上げる。


 


「昨夜、

 星の位置、

 変じゃなかったか?」


 


 最初は、

 気のせいだと

 笑われていた。


 


「年寄りの目が

 悪くなったんだろ」


 


 そう言って、

 話は終わる。


 


 ……はずだった。


 


 東の街道沿いで

 宿を営む私は、

 変化を

 笑えなかった。


 


 季節が、

 合わない。


 


 春のはずなのに、

 夜が冷えすぎる。


 


 かと思えば、

 昼は妙に

 蒸し暑い。


 


 作物の育ちが

 まばらで、

 同じ畑なのに

 出来が違う。


 


「星回りが

 おかしいんだ」


 


 常連の占星師が、

 そう呟いた。


 


「ズレてる。

 微妙に、

 でも確実に」


 


「それって、

 よくあることだろ?」


 


 誰かが言う。


 


 占星師は、

 首を振った。


 


「これは、

 “揺らぎ”じゃない」


 


「引っ張られてる」


 


 その言葉が、

 胸に残った。


 


 引っ張られる?


 


 何に?


 


 数日後、

 街に

 噂が流れ始めた。


 


「星巡りの書架が、

 星狩りと

 衝突したらしい」


 


「精霊使いが

 関わってるとか」


 


「代償で、

 感覚を失った

 娘がいるって」


 


 話は、

 尾ひれをつけて

 広がっていく。


 


 真実かどうかは、

 誰にも分からない。


 


 でも、

 一つだけ

 確かなことがあった。


 


 夜空が、

 落ち着かない。


 


 星が、

 妙に近い。


 


 瞬きが、

 揃わない。


 


 子どもが、

 夜泣きをする。


 


「星が、

 うるさい」


 


 そう言って、

 目を覚ます。


 


 意味は分からない。


 


 でも、

 ぞっとした。


 


 街の教会では、

 祈りが増えた。


 


 理由は、

 誰も説明できない。


 


 ただ、

 不安だけが

 共有されていく。


 


「世界は、

 大丈夫なんだろうな」


 


 誰かが言う。


 


「今までだって、

 何度も

 危機はあった」


 


 それも、

 本当だ。


 


 でも、

 今回は違う。


 


 剣も、

 疫病も、

 戦争もない。


 


 それなのに、

 確かに

 “歪んでいる”。


 


 ある夜、

 私は屋根に上り、

 星を見た。


 


 昔、

 父に教わった

 星座が、

 微妙に合わない。


 


「……誰かが、

 触ったのか?」


 


 そんな馬鹿な、

 と思う。


 


 でも、

 そう考えないと

 説明がつかない。


 


 翌朝、

 街道を行く

 一団を見かけた。


 


 剣士、

 学者、

 星読み。


 


 そして、

 一人の少女。


 


 フードを被り、

 静かに歩いている。


 


 表情は、

 穏やかだ。


 


 でも、

 どこか

 この世界と

 噛み合っていない。


 


 すれ違った瞬間、

 なぜか、

 胸が痛んだ。


 


 理由は、

 分からない。


 


 ただ、

 直感した。


 


 ――あの子が、

 “引き金”だ。


 


 善でも、

 悪でもない。


 


 世界を変えてしまった、

 ただの人間。


 


 彼女が通り過ぎた後、

 星が一つ、

 わずかに瞬いた。


 


 その光は、

 祝福にも、

 警告にも

 見えた。


 


 世界は、

 まだ壊れていない。


 


 でも、

 元には戻らない。


 


 私たちは、

 気づいてしまったからだ。


 


 星が、

 絶対ではないことを。


 


 誰か一人の選択が、

 世界に

 痕を残すことを。


 


 夜、

 私は空に向かって

 小さく祈った。


 


 どうか、

 彼女が

 間違っていませんように。


 


 それは、

 神への祈りではない。


 


 名前も知らない

 一人の人間に

 向けた願いだった。


 


 星は、

 答えない。


 


 ただ、

 静かに巡り続ける。


 


 変わってしまった

 世界を抱えたまま。


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