第十一話 (アルベルト視点)守ると決めた剣の距離
彼女は、
平然と歩いていた。
それが、
一番怖かった。
転ばない。
遅れない。
弱音も吐かない。
ただ、
世界と接触していない
みたいに見える。
――昔の俺と、
同じだ。
剣だけを信じて、
自分を削っていた頃。
俺は、
フィオの背中を見る。
細い。
軽い。
それなのに、
星狩りの本拠地から
帰ってきた背中だ。
守ったつもりで、
何を失わせた?
問いは、
答えにならない。
ミカが、
小声で言う。
「……大丈夫なの?」
俺は、
即答できなかった。
「分からない」
正直に言う。
「でも、
立ってる」
それは、
事実だ。
フィオは、
自分から
焚き火の準備に
加わっている。
火に近づいても、
身じろぎしない。
熱さを、
知らないから。
その光景に、
胸の奥が
ぎしりと鳴る。
俺は、
何度も
「守る」と言ってきた。
だが、
守るとは何だ。
痛みを奪うことか。
選択を奪うことか。
――違う。
それは、
支配だ。
夜、
見張りの番で
彼女の隣に立つ。
星を見ている。
綺麗だと
思っているのか、
分からない。
「……なあ」
俺は、
声をかける。
「後悔してるか」
少し、
間があった。
それから、
彼女は言う。
「してない」
即答。
迷いが、
なかった。
「怖くは?」
「怖いよ」
それも、
即答。
「でも、
戻りたいとは
思わない」
星を見たまま、
そう言った。
俺は、
その横顔を
焼き付ける。
昔、
選べなかった誰かが
こう言えたなら。
俺は、
剣を持たずに
済んだかもしれない。
守れなかった過去が、
胸に刺さる。
だが、
同時に思う。
――今度は、
違う。
俺は、
彼女の前に立たない。
後ろから
押しもしない。
ただ、
並んで歩く。
それだけだ。
精霊の気配が、
夜気に混じる。
以前のような
圧はない。
距離を保った、
沈黙。
それを見て、
確信する。
彼女は、
もう
「守られる存在」じゃない。
選び続ける存在だ。
それを、
俺は奪わない。
星が巡る。
感覚を失った少女と、
剣しか持たない俺を
等しく照らしながら。
この旅は、
まだ終わらない。
だが、
少なくとも今は、
彼女の背中が、
未来を向いている。
それだけで、
剣を抜く理由は、
十分だった。




