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第十話 静かな夜と、巡り続ける星



 朝が来たことは、

 光で分かった。


 


 でも、

 それだけだった。


 


 目は覚めている。

 景色もある。


 


 なのに、

 世界が

 私に触れてこない。


 


 身体を起こす。


 動く。

 問題なく。


 


 ――何も、感じない。


 


 それを、

 「静か」だと

 思ってしまったことに、

 少し驚いた。


 


 野営地は、

 すでに片付けの

 最中だった。


 


「起きたか」


 


 アルベルトの声。


 


 近い。

 はずだ。


 


「……うん」


 


 声は出た。

 喉の違和感もない。


 


 ただ、

 自分の声が

 自分のものに

 聞こえなかった。


 


 ルナリアが、

 少し離れた場所から

 こちらを見る。


 


 星盤は閉じられ、

 彼女の表情は

 読み取れない。


 


「状態は?」


 


 質問は、

 簡潔だった。


 


「感覚は、

 戻っていない」


 


 私は、

 正確に答える。


 


「でも、

 悪化もしてない」


 


 それは、

 本当だった。


 


 ディーンが、

 小さく息を吐く。


 


「……安定してる、

 ってことか」


 


「代償が、

 固定された」


 


 ルナリアが言う。


 


「これ以上、

 奪われることは

 ないでしょう」


 


 慰めでも、

 祝福でもない。


 


 事実だけ。


 


 私は、

 それでよかった。


 


 感情を

 乗せられない言葉の方が、

 今は楽だった。


 


「進める?」


 


 アルベルトが問う。


 


 私は、

 立ち上がる。


 


 ふらつかない。

 力も入る。


 


 ただ、

 地面は

 相変わらず遠い。


 


「進める」


 


 それだけで、

 十分だった。


 


 歩き出す。


 


 星狩りの本拠地は

 もう見えない。


 


 でも、

 星の軋みは、

 まだ空気に残っている。


 


 精霊の気配が、

 隣を歩いている。


 


 以前のように、

 声は聞こえない。


 


 でも、

 いなくなったわけじゃない。


 


 沈黙という形で、

 そこにある。


 


「……ねえ」


 


 私は、

 心の中で

 呼びかけた。


 


「これで、

 よかったんだよね」


 


 返事はない。


 


 けれど、

 拒絶もなかった。


 


 それが、

 今の答えだった。


 


 しばらく歩いて、

 アルベルトが

 速度を落とす。


 


「無理はするな」


 


「してないよ」


 


 そう言ってから、

 気づく。


 


 無理かどうかを、

 判断する感覚が

 もうない。


 


 でも、

 彼は

 それ以上

 何も言わなかった。


 


 ただ、

 少しだけ

 近くを歩く。


 


 守るでもなく、

 支えるでもなく。


 


 選ばせる距離。


 


 それが、

 今の私には

 ありがたかった。


 


 夜、

 焚き火の前で

 私は星を見上げる。


 


 きれいかどうかは、

 分からない。


 


 でも、

 動いている。


 


 それだけは、

 確かだった。


 


 私は、

 胸に手を当てる。


 


 ここには、

 まだ何かがある。


 


 痛みか、

 意志か、

 記憶か。


 


 名前は、

 つけられない。


 


 でも、

 消えていない。


 


 精霊の声が、

 ほんのわずか、

 重なる。


 


 ――進め。


 


 命令でも、

 願いでもない。


 


 ただの、

 確認。


 


 私は、

 小さくうなずく。


 


「分かってる」


 


 感じなくても、

 迷わない。


 


 迷えないほど、

 私は、

 選んだあとにいる。


 


 星は巡る。


 


 感覚を失った

 私を置いて。


 


 それでも、

 私は歩く。


 


 それが、

 代償の先で

 見つけた、

 新しい生き方だった。


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