僕らの三角都市
第一部:二人だけの円環
東京という街は、地方出身者にとって、時に広すぎる海のように感じられる。その中で、水城と由奈は、互いを浮き輪代わりに七年間を過ごしてきた。二人とも二十五歳。地方の同じ大学に進学するために上京し、偶然にも最初の授業で隣の席になった。人見知りの由奈と、誰にでも明るく振る舞うけれど、心の壁は厚い水城。友達のいなかった二人が打ち解けるのに、時間はかからなかった 。
水城が暮らすのは中野。JR中央線が東西を貫き、駅前には活気のある商店街が広がる、利便性と混沌が同居する街だ 。彼女の1Kの部屋は、その街を映したように実用的で、けれどどこか雑然としていた。窓辺には丁寧に育てられた多肉植物が並び、その横には読了の目処が立たないビジネス書が積み上がっている。大手町の大企業で働く彼女の日常は、効率と成果を求められる戦場だ 。丸の内のガラス張りのオフィスビル群は、彼女に達成感と同時に、言いようのない孤独感を与えていた 。
一方、由奈は三軒茶屋に住んでいる。下町のような温かみと、SNS映えするお洒落なカフェが共存する、若い女性に人気のエリアだ 。彼女の部屋は、柔らかな間接照明と古着屋で見つけたヴィンテージのラグ、そしていつも淹れたてのコーヒーの香りに満たされていた。ITベンチャーで働く彼女の職場は、自由な雰囲気と引き換えに、常に変化への対応を求められる場所だった 。水城とは違う種類のストレスを、由奈は日々感じていた。
大学時代、二人はいつも一緒だった。講義をさぼって映画を観に行き、安い居酒屋で朝まで語り明かし、なけなしの金をはたいて海外旅行にも出かけた。卒業後もその関係は変わらなかった。仕事の愚痴、将来への不安、恋愛の悩み。すべてを共有し、互いを尊重し、肯定し合った。彼氏ができた時期もあったが、どちらも長続きはしなかった。彼氏との約束より、互いを優先してしまうことが原因で振られた経験は、二人にとって笑い話であり、同時に絆の証でもあった。
社会人になってからの友人作りは、学生時代とは全く違う。利害関係が絡み、本音を話せる相手を見つけるのは難しい 。多くの同僚は、あくまで仕事上の付き合いであり、プライベートな領域に踏み込むことには躊躇があった 。そんな東京砂漠の中で、水城と由奈の関係は、まるで宿根草のようだった。季節が巡り、周りの景色が変わっても、根は深く張り続け、毎年必ず美しい花を咲かせる。それは意識的に育んできたものではなく、気づけばそこにある、当たり前で、かけがえのないサンクチュアリだった 。
ある金曜の夜、二人は由奈の部屋で、デパ地下で買ってきた惣菜を並べていた。 「そういえば、地元の美咲、結婚したんだって」 水城がグラスにビールを注ぎながら言った。インスタグラムには、純白のドレスに身を包んだ友人の、幸せそうな写真が投稿されている 。 「おめでとう、だね」 由奈は相槌を打ちながら、ポテトサラダを口に運んだ。その声には、祝福と、ほんの少しの寂しさが滲んでいた。上京して数年は、東京のすべてが輝いて見えた 。休日は話題のスポットを巡り、東京出身者よりも東京に詳しくなったものだ 。しかし社会人生活が軌道に乗るにつれ、その輝きは日常のベールに覆われていく。地元に残った友人たちのライフステージの変化は、自分たちが選んだこの東京での生活が、本当に正解だったのかという漠然とした問いを突きつけてくる 。
「私たち、このままでいいのかな」 ぽつりと由奈が呟いた。それは、二十五歳という年齢が突きつける、「クォーターライフ・クライシス」特有の不安だった 。仕事には慣れた。一人暮らしにも慣れた。でも、この道の先に何があるのかが見えない。 「いいんじゃない? 楽しいし」 水城は努めて明るく言った。 「由奈がいるし」 その一言で、部屋に漂っていた不安の粒子が、すっと消えていく。そうだ、一人じゃない。この街で、私たちは二人で一つの円環を成しているのだ。それさえあれば、大抵のことは乗り越えられる。二人は顔を見合わせ、どちらからともなく笑い出した。その完璧な円の中に、やがて一滴の雫が落ちることになるとは、まだ知る由もなかった。
第二部:零れたひとしずく
水城の働く丸の内のオフィスは、静寂と緊張感が支配する空間だった。窓の外には皇居の緑が広がり、整然とした街並みは、働く者に一種の高揚感とプレッシャーを与える 。その中で、同期の健人は、ひときわ優秀だった。物腰は柔らかく、どこか頼りない雰囲気を漂わせているのに、仕事は常に完璧。そのギャップが、彼の魅力でもあった。
しかし、最近の健人は明らかに元気がなかった。会議での発言は歯切れが悪く、いつもなら参加する仕事終わりの飲み会も断り続けている。風の噂で、長年付き合っていた彼女に振られたのだと聞いた。水城は、デスクで力なくキーボードを叩く彼の背中を見ながら、他人事とは思えなかった。この街で大切な人を失う痛みは、地方出身者にはことさら身に沁みる 。
「健人くん、今週の金曜、空いてる? 同期で飲みに行かない?」 退勤間際、水城は思い切って声をかけた。健人は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに力なく笑って「ごめん、今はそういう気分じゃなくて」と断ろうとした。 「じゃあさ、同期とかじゃなくて、友達と三人でどう? 私の親友も来るから」 ほとんど衝動的な提案だった。なぜ由奈を誘ったのか、自分でもよく分からなかった。ただ、健人の抱える深い孤独を癒せるのは、無関係な第三者の、しかも由奈のような温かい人間の存在ではないかと直感的に思ったのだ。健人は少し迷った後、「…それなら」と小さく頷いた。
店は、水城が選んだ中目黒の燻製料理が自慢の隠れ家的な居酒屋にした。若者に人気がありながらも、落ち着いた雰囲気の店だ 。桜並木で有名な目黒川沿いの路地裏に、その店はひっそりと佇んでいた。 「初めまして、由奈です」 「どうも、健人です」 由奈と健人の挨拶は、少しぎこちなかった。観察するように相手を見る由奈と、どこか所在なさげな健人。その間に立って、水城は必死に会話の糸口を探した。 「由奈はITベンチャーなんだ。結構自由な社風でさ」 「へえ、すごいですね。うちは真逆です。THE・日系大手って感じで」 健人は自嘲気味に笑った。彼の会社がある大手町や丸の内は、日本のビジネスの中枢であり、安定と引き換えに、個人の裁量が少ない働き方が主流だ 。一方、由奈の働く渋谷のベンチャーは、個人の実力が評価される反面、常に変化と不安定さが付きまとう 。二人の働く環境は対照的だったが、東京という都市で二十五歳として生きる上での悩みには、共通するものがあった。
燻製の香りが漂う店内で、三人の会話は少しずつ熱を帯びていった。健人は、水城が仕事でいかに頼りになるかを語り、由奈は、水城がいかに面白い失敗をするかを暴露して笑いを誘った。健人の表情が、オフィスにいる時とは比べ物にならないほど和らいでいくのを、水城は嬉しく思った。
健人は、自分のキャリアや将来に対する漠然とした不安を口にした 。仕事は評価されている。給料も安定している。けれど、「何のために仕事をしているのか分からなくなる時がある」と彼は言った 。それは、まさに「クォーターライフ・クライシス」の典型的な症状だった。仕事や生活に慣れ、ある程度の安定を手に入れたからこそ生まれる、「このままでいいのか」という問い 。彼の破局は、その危機の引き金に過ぎなかったのだ。仕事の成功が、必ずしも個人の幸福に直結しないという現実は、水城や由奈にとっても他人事ではなかった。
「水城さんたちを見てると、羨ましいよ」 三杯目の燻製ビールを飲み干した後、健人がぽつりと言った。 「俺には、そういう友達、いないから」 その言葉に、水城と由奈は顔を見合わせた。健人の瞳の奥に、今まで見えなかった深い孤独の色が揺らめいていた。それは、この華やかな都市の光に照らされることのない、無数の影の一つだった。
第三部:三角形の輪郭
終電が近づき、店を出た三人は、ひんやりとした夜風が心地よい目黒川沿いを駅に向かって歩いていた。酔いも手伝って、健人の口は滑らかになっていた。 「会社の人とは、どうしても競争意識が抜けなくてさ。プライベートなことは話したくないし、知られたくもない」 学生時代の友人たちは、社会に出て価値観が変わり、疎遠になったという 。一緒に遊ぶ仲間はいても、腹を割って話せる親友と呼べる存在はいない、と彼は感じていた 。 「だから、二人の関係が本当に羨ましい。学生時代のまま、時間が止まってるみたいで」 健人の言葉は、水城と由奈の友情の核心を突いていた。二人の関係は、社会の荒波から身を守るための、小さなシェルターだった。そのシェルターの存在を、外部の人間から肯定されたような気がして、水城は少し誇らしい気持ちになった。
駅の改札で健人を見送った後、二人はタクシーを拾い、水城の中野の部屋へ向かった。シャワーを浴びて、部屋着に着替えると、先ほどの高揚感はすっかり消え、静かな夜が戻ってきた。 「健人くん、結構、参ってるみたいだったね」 由奈が、コンビニで買ったアイスを食べながら言った。 「うん。でも、少しは元気になったかな」 「元気になったと思うよ。水城がいたから」 由奈の言葉には、棘はない。けれど、水城にはその言葉の裏にある微かな響きが聞こえた気がした。それは、共感と、そしてほんのわずかな懸念。二人だけの完璧な世界に、異物が混入したことへの、無意識の警戒心だったのかもしれない。 「また、三人で飲みたいな」 水城は、その響きを打ち消すように、わざと明るく言った。由奈は何も言わず、ただ静かに頷いた。
その夜を境に、三人の関係は急速に深まっていった。翌週、すっかり元気を取り戻した健人から、お礼のメッセージと共に食事の誘いが来た。それから、三人で集まるのが週末の恒例になった。 彼らは、若者のトレンド発信地である渋谷でショッピングを楽しみ 、下北沢の古着屋を冷やかした 。晴れた日には代々木公園でテイクアウトのランチを広げ 、雨の日は六本木の国立新美術館で静かな時間を過ごした 。時には少し遠出して、お台場のチームラボプラネッツで幻想的なアートに没入したりもした 。 それは、まるで失われた大学時代を取り戻すかのような時間だった。社会人になってからは、新しい友人を作るための時間も気力も削られがちだ 。しかし、三人は意識的に時間を作り、関係を育んでいった。それは、この孤独な大都市で、新たな「疑似家族」を築こうとする無意識の試みだったのかもしれない。水城と由奈が築いてきた二人だけの家族に、健人という新しいメンバーが加わったのだ。
グループチャットが作られ、くだらないスタンプが飛び交い、次の週末の計画が立てられる。健人は水城に仕事の相談をし、由奈にはおすすめの本を尋ねた。水城は二人の間を繋ぐハブとなり、由奈は持ち前の穏やかさで、その関係に安定感を与えた。 最初はぎこちなかった三角形が、次第に安定した輪郭を持ち始める。三つの点が、それぞれを支え合い、心地よい均衡を保っているように見えた。少なくとも、最初の数ヶ月は。
第四部:揺れる天秤
変化は、秋風のように静かに、そして確実に訪れた。最初にその変化に気づいたのは、由奈だった。
きっかけは些細なことだった。三人で出かける予定だった週末、水城から「ごめん、健人くんと二人で、仕事で使う資料を探しに行くことになったから、今日はキャンセルでいい?」というメッセージが届いた。もちろん、由奈は「分かった、気にしないで」と返信した。仕事なら仕方がない。けれど、胸の奥に小さな棘が刺さったような、ちくりとした痛みを感じた。 以前なら、水城は必ず「由奈も一緒に行かない?」と誘ってくれたはずだ。そして、資料探しが終わった後には、三人でお気に入りのカフェに寄るのがお決まりのコースだった。三軒茶屋には、そんな隠れ家のようなカフェがたくさんあった 。
由奈は一人、いつものカフェ「二足歩行 coffee roasters」で窓の外を眺めていた 。白を基調とした明るい店内で、彼女は自分の心に芽生えた感情の正体を探っていた。これは、嫉妬だろうか。でも、健人に恋愛感情はない。水城を取られた、というような独占欲でもないはずだ 。 それは、もっと静かで、物悲しい感情だった。二人だけの言語で通じ合えていた世界が、少しずつ翻訳を必要とするようになっていくことへの寂しさ。水城と健人の間で交わされる、職場の人間だけが分かる内輪のジョーク。由奈の知らない、二人の共通の記憶。それらが、由奈を少しずつ疎外していく 。彼女は、水城の親友であることに変わりはない。けれど、「一番」の親友ではなくなってしまったのかもしれない。その不安が、由奈の心を曇らせていた。
水城もまた、見えない天秤の上でバランスを取ろうと必死だった。由奈が少し距離を置いていることには気づいていた。だから、以前よりも意識して由奈との二人だけの時間を作るようにした。中野の雑貨屋を巡ったり 、由奈の好きそうなカフェを探して三軒茶屋まで足を運んだりした。 しかし、その努力は、かえって関係の不自然さを際立たせるだけだった。かつては呼吸をするように自然だった二人の時間が、今は「予定」としてカレンダーに書き込まれるものになってしまった。水城は、由奈と健人、二人の親友の間に立つブリッジとしての役割に、喜びと同時に、言いようのない疲労を感じ始めていた。
健人は、そんな二人の心の機微には気づいていなかった。彼は、生まれて初めて手に入れた安定した友情という名の温かい毛布に、ただ安堵していた。失恋の傷は癒え、仕事にも張りが戻ってきた。水城の快活さと、由奈の静かな優しさ。二つの異なる光が、彼の空っぽだった世界を照らしてくれていた。彼は、純粋な感謝の気持ちで二人に接していた。 しかし、その純粋さが、かえって天秤を傾かせる重りとなっていた。彼は無意識のうちに、水城には感情的なサポートを、由奈には知的な刺激を、と役割を分担させていた。男女の友情が成立するためには、適切な距離感と、互いを異性として意識しない明確な境界線が必要だと言われる 。三人の間に恋愛感情はなかった。しかし、友情という名の下で、健人は二人に深く依存し始めていた。
ある夜、三人で食事をした帰り道。健人が、最近始めた趣味のカメラの話を夢中で水城にしていた。専門的な用語が飛び交い、由奈は会話に入れず、少し後ろを歩いていた。ふと、水城が由奈を振り返り、申し訳なさそうな顔で言った。 「ごめん、由奈。つまんないよね」 その一言が、由奈の心の琴線に触れた。 「…別に。大丈夫だよ」 由奈は微笑んでみせたが、その笑顔は明らかに強張り、声は冷たく響いた。水城は息を呑み、健人もようやく異変に気づいて口をつぐんだ。 沈黙が、三人の間に重くのしかかる。それは、恋愛のもつれよりもずっと複雑で、言葉にするのが難しい、友情のひび割れる音だった。
第五部:言えない問い
その夜以降、三人の関係は、薄氷の上を歩くような、危ういバランスで成り立っていた。表面上は何も変わらない。グループチャットでは相変わらずスタンプが飛び交い、週末には顔を合わせる。しかし、会話の端々に、以前にはなかった遠慮と緊張が漂っていた。
由奈は、自分の感情をどう処理していいか分からなかった。水城に嫉妬している自分を認めたくなかった。それは、長年築き上げてきた友情への裏切りのように感じられたからだ 。彼女は、水城と健人が二人で会うことに嫉妬しているのではなく、彼らが共有する「自分の知らない時間」に嫉妬しているのだと気づいた 。それは、自分だけが輪の外にいるような感覚だった。
水城は、どうにかして以前の関係を取り戻そうと焦っていた。しかし、何をしても空回りするばかりだった。由奈を気遣えば、健人が疎外感を抱く。健人と親しくすれば、由奈の表情が曇る。友情とは、こんなにも脆いものだっただろうか。学生時代は、時間も価値観も共有できていた。だが、社会人になった今、それぞれの生活、それぞれの人間関係がある。友情を維持するためには、学生時代には必要のなかった、意識的な努力と配慮が求められるのだと痛感していた 。
転機は、健人がもたらした。 ある日、健人は由奈をランチに誘った。二人きりで会うのは、初めてだった。場所は、由奈のオフィス近くの、彼女が好きだと言っていたカフェだった。 「最近、由奈さん、元気ないように見えて」 健人は、おずおずと切り出した。 「俺のせいかな、って。俺が、水城さんと由奈さんの間に入ったから…」 由奈は驚いて顔を上げた。この朴訥で、少し鈍感だと思っていた男が、自分たちの関係の繊細な変化に気づいていたことに。 「そんなことないよ」 由奈は反射的に否定した。けれど、健人は真っ直ぐに由奈の目を見て言った。 「俺、二人が大事なんだ。水城さんも、由奈さんも。だから、もし俺のせいで何かが壊れそうになってるなら、ちゃんと言ってほしい」
健人の誠実な言葉に、由奈の心の中で固く凍っていた何かが、ゆっくりと溶けていくのを感じた。彼女は、初めて自分の本当の気持ちを、少しだけ言葉にした。 「…寂しかった、だけだと思う。水城が、遠くに行っちゃうような気がして」 それは、恋愛相談とは全く違う、友情についての、不器用な告白だった 。健人は、黙って由奈の話を聞いていた。彼は具体的な解決策を提示するわけではなかったが、ただ真摯に耳を傾けるその姿勢が、由奈の心を少しだけ軽くした 。
その週末、三人は久しぶりに、三軒茶屋の雑居ビルの屋上にあるカフェ「a-bridge」に集まった 。夕暮れの空が、東京の街並みを茜色に染めている。眼下に広がる無数のビルの灯りが、まるで星空のように瞬いていた。 会話は、途切れ途切れだった。けれど、その沈黙は、以前のような気まずいものではなく、それぞれが何かを考え、受け入れようとしている、穏やかな静けさだった。
由奈は、水城との友情が、もう以前のような二人だけの閉じた円環に戻ることはないのだと受け入れた。それは喪失であると同時に、新しい関係性の始まりでもあった。 水城は、友情を完璧に管理しようとすることをやめた。関係は生き物のように変化していく。その変化を恐れるのではなく、受け入れていくしかないのだと悟った。 健人は、自分が二人の友情に与えた影響の大きさを理解した。そして、これからはもっと繊細に、このかけがえのない関係を大切にしていこうと心に誓った。
完璧な円は、いびつな三角形になった。その形は、もしかしたら円よりも不安定で、脆いのかもしれない。男女三人の友情は、常に二辺が他の一辺より長くなる、二等辺三角形の宿命を背負っているのかもしれない 。 それでも、彼らは今、同じ景色を見ている。 眼下に広がる、無数の光が織りなす三角都市。その一つ一つの光の中に、彼らと同じように、不確かで、愛おしい人間関係を必死に紡いでいる人々がいる。
「綺麗だね」 由奈が呟いた。 「うん」 水城が応える。 「…そうだね」 健人が、少し遅れて言った。
その声の響きは、ほんの少しずつ違っていた。けれど、三つの声は、東京の夜空に確かに重なり合っていた。彼らの友情がこの先どうなるのか、誰も知らない。ただ、その不確かな未来さえも、三人で分かち合えるのなら、きっと乗り越えていける。そんな予感が、夕暮れの風と共に、彼らの心を静かに満たしていった。




