比類なき偉大なる支配者
その人物は支配者となったときに、歴史上に存在したすべての支配者たちが願いながらも叶わずに終わったことを成し遂げた。
すなわち、全世界の支配である。
地球上余す所なく彼の支配の及ぶ場所であり、彼の言葉は絶対だった。
美酒も美食も思いのままであり、彼がやれと言えばどんな咎もないような静かな村や町を焼き尽くすこともできた。
あるとき彼はふと思い立ち、服を全て脱いで町中を歩いてみた。彼を見ないものがいないように、大きな音を立てながら静かな町を歩いていく。
昔の支配者の時代ならばそんな彼を笑う子どももいたことだろう。だがいまは彼を笑う者など一人もいなかった。
おとぎ話の愚かな王の真似をしたとしても自分を笑う者など一人もいない。そのことをすっかり自覚した彼は自分の家へと戻っていった。
家では彼の身の回りの世話をするものが恭しく彼を出迎えて温かな風呂が沸いていることを伝える。
「俺は全世界の支配者だ」
「そのとおりでございます」
「誰も俺に逆らえない」
「そのとおりでございます」
風呂に入りながら呟く言葉に対して打たれる相槌に対して彼は不意にカッとなり、近くにあった手桶を投げつけた。
それの当たりどころが悪かったのだろう、従者ロボットは妙な音を立てて倒れ動かなくなってしまった。
彼はそれを見ると修理用ロボットを呼び、風呂に入り続けた。
こうして世界最後の男の一日は今日も過ぎていく。
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