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第7話

月の光を織り上げたような銀髪が、広い肩にうねるように流れている。花梨を見つめる瞳は、暮れ初む空のような紫。妖しい輝きだったが、今は午後の光を受けて、いつか見たアメジストのように澄んでいた。

彼の名は、ヴィンセント・ル・レスコットというらしい。

先ほど紹介を受けたが、横文字は苦手で、多分明日には忘れていると思う。

それに今の花梨は衝撃の連続で、記憶回路はもちろん、色んな回路が半分壊されている気がした。


さっき、花梨を魔物扱いしたのはこの男だった。

そのヴィンセントにとんでもないことを聞かされたのは、重い瞼を必死で押し上げていた最中だ。その瞬間疲れは倍増しになったが、意識ははっきりした。


「魔法――ですって?」


まさかこの期に及んでそんなファンタジー展開を口にするとは思わなかったので、花梨は鼻で笑おうとした。けれど、ヴィンセントを初め、花梨を囲むように立っている男たちの顔はどれも冗談を言っているものではない。


「そうですよ。何を驚かれているのです。魔法などごく当たり前のものではないですか。いったいどんな鄙びた場所から出てきたんですか」

「鄙びたって、え、ちょっと待って。本当に魔法なんてここじゃ当たり前なの? 冗談でしょ?」

「冗談なものですか。先ほどカリン殿に使ったのは治癒魔法。これでも魔道士団の団長を務めておりますので、魔法にはいささか自信があったのですが。今はその自信も揺らぎかけております」


ヴィンセントがわずかに視線を下げる。それだけで、物憂い色気がヴィンセントの顔に表れた。

計算されたようなタイミングで悲しげに微笑む男に、花梨はため息をつく。

いたな、道場にもこんな男。

自分をどう見せたら魅力的なのか、いつも鏡の前で練習していたっけ。

ヴィンセントもナルシスト気味なのかも知れない。

すこし可哀想になってさめた眼差しでヴィンセントを見ていたら、目の前のナルシストはわずかに唇を引きつらせた。何度かの咳払いの後、気を取り直したように口を開く。


「そういうわけで、私の魔法が通じなかったあなたは特異体質かも知れません。さて、そろそろお嬢さんのことを聞かせてもらえますか? その剣のことも私たち全員、知りたいと思っています」


花梨の膝に載る、返してもらった闇姫をヴィンセントが見る。

そうだ。大人しく、男たちの話を聞いてもいいかもしれないと思ったのは、闇姫を返してもらったからだ。

先ほどは取り上げたわけではなく、剣を抜かれるとまずいと思って預かっただけだという詫びと共に。


「ね、ここってどこ?」


花梨はようやくそれを口にする。

聞くのが怖かったのだが、もう聞かずにはいられなかった。


「何を――」


まるでバカなことを聞くとばかりにリベルトが嘲笑うように声を上げたが、花梨が真剣な顔をしているのを見て言葉を飲んだ。


「キャロウエヴァーツだ。大陸一の国家・キャロウエヴァーツの首都アヴァロン。今、きさまはそのアヴァロンの王宮にある奥宮にいる」

「キャロウエヴァーツ? アヴァロン……」


聞いたこともない国名に、花梨の手は小さく震えてしまった。それをぎゅっと闇姫を握ることで止めてから顔を上げる。


「それは世界のどこにあるの? ヨーロッパ大陸? アメリカ大陸? それともアフリカ辺り?」

「カリンの言っていることこそ僕たちにはわからないよ。キャロウエヴァーツはキャロウエヴァーツ。この大陸で一番大きな国じゃないか。子供だって知っているはずだけど?」


リベルトの弟だと紹介された、柔らかい金髪の男――ブルーノが花梨の言葉を否定した。

花梨の目からぼろりと大きな涙がこぼれる。まったく、花梨が意識することなくこぼれたそれは、頬を伝い、顎から膝の上へしたたり落ちていった。


「私、本当に異世界に来ちゃったんだ……」


魔法が当然のように存在し、剣を帯刀しなければいけないような世界に。

そんな世界にひとりぼっち。

花梨が知っている人間も、花梨を知っている人間も、誰ひとりいない世界にいることに、花梨は絶望して顔をクシャクシャに歪めた。


ちょっと短めの更新です。今日中にもう1回更新できたらと思っています。読んでいただいてありがとうございます。

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