第2話
ほんのりと香る花の匂い、頬に寄せる水のくすぐったさに花梨はふと目を開けた。
ぼんやりと霞む視界には、鮮やかな緑がある。
「あれ……」
緑……?
水……?
ようやく今こそ目が覚めたみたいに花梨は跳ね起きた。
体を支えようと、ついた手に触れたのはしめった土の感触。
何より目の前に広がる光景に呆然となった。
「森だ」
手入れがされた明るい木立。地面には色とりどりの花々が咲き乱れている。
花は、花梨が手をついた地面のすぐ横にも咲いており、さっき香った花の匂いはこれだろう。
しかし。
「いつからうちの裏山はこんなにきれいなお花畑になったんだっけ」
黒宮家が所有する土地は広い。
地方都市のさらに奥深い山の中に屋敷を構えるせいか、麓にある村の半分と周囲の山のほとんどは黒宮家のものだ。
花梨と草司が幼い頃走り回った裏山もそのひとつだが、だからこそ花梨は知っている。
裏山にこんなに明るい森や林はないって。
全身が小さく震えるようだ。
地面に知らず爪を立てる。
それに、花梨はどうして泉に半分浸かったように倒れていたのか。
この泉だって、裏山の泉にはとても見えない。
さっきまで、確か――――。
「そうだ。闇姫ちゃんっ」
はっとして大切な剣を探す。
探すまでもなかった。
闇姫は花梨の体の下にあった。
さやに収まったままのそれにホッとして、手に持つ。
そうだ、さっきまでこの闇姫と一緒に座敷で舞っていたはずだ。
舞が終わって、清々しいような余韻に瞼を閉じていたら、急に踏んでいるはずの座敷が揺らいだのだ。
まるで地震か何か起こったみたいに、ぐらりと。
目を開けたとき、もう花梨は座敷にいなかった。
墨をとかしたみたいに真っ暗な空間がねじ曲がっているのを見た。
何も見えない暗闇のはずなのに、強い力で引き絞られ、ありえない方向へと引っ張られているのがはっきりと見えた気がした。
それが気持ち悪くて花梨は目を瞑った。
自分の体さえねじ曲げられていくようで怖かったせいもある。
そして気付いたらここにいたのだ。
あれがなんなのか。
ここどこなのか。
花梨はわからなくて、不安で、怖くて、闇姫がたったひとつのよすがとしっかと胸に抱いた。
今日中にもう一話更新できたらいいな。というか、ひとりでも男子を出したい! 読んでいただいてありがとうございます。(細かく修正を入れておりますが、何かミス等ありましたら教えていただけると嬉しいです)