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第29話

また遅い更新でごめんなさい

その人間達がやってきたのは午睡をむさぼっていたときのことだった。

ランチを食べるとやっぱり眠くなるのはどこでも一緒のこと。花梨のために用意してあるベッドはふっかふかのもふもふなのだ。この誘惑に勝てる人間はいない気がする。

なのに、そのせっかくの至福の時間を破られてしまって少し気分が悪い。

が、たたき起こしたセクシーメイド達が皆一様に顔を青くしていることにびっくりして眠気なんて吹き飛んでしまった。


「どうしましょう、カリンさま。どうしましょう!」

「だから、何がどうしましょうなのよ。いったい何が起こったの?」

「何を悠長なことをなさっておいでですか、カリンさま。ほら、ちゃんと起きて下さい。御髪を早く整えないと」

「ドレスは今朝届いた新作がいいでしょう。今日ばかりは靴下をはいてもらいますからね」


入れ替り立ち替り花梨の周りをくるくると回って身支度を調えていくセクシーメイド達だが、今ひとつ要領を得ない。

だから襟元のリボンを結んでいるメイドの手を掴んで仕事をストップさせると、あっさり教えてくれた。


「カリンさまを迎えに馬車が参っているのです。正式に使者も立ててありますが、ヴィンセント様のお留守にこんな招待など、いくらご身分が高い方とは言え、断れないことを見越しての失礼きわまりないやり方ですわ」

「本当ですわ。確かにこのレスコット家は王族の家臣ではありますが、決してこんな闇討ちのようなやり方が許されるべきではありません」


セクシーメイド達の鼻息も荒い発言に花梨はそうだったと思い出す。

ヴィンセントは魔導団の本部がある魔導庁に行っていて、今は留守なのだ。何でも緊急で招集をかけられたらしいけれど。

ご主人様命であるセクシーメイド達だから放っておくと不平不満が止まらなそうだったから、パニエを整えているメイドの手を止めて聞いてみる。


「あのさ。迎えって、どこから?」

「王宮からです。あら、申し上げませんでしたっけ? マキス王さま――この国の王でいらっしゃる方から招待状が届いています」

「王さま!?」


テーブルにあったカードを渡されて花梨は驚いて見入る。

差し出された招待状みたいなカードはえらく装飾が施されたうつくしいものだ。

が、そこに書かれている文字は読めない。


「書き文字は翻訳してくれないのか、このピアスって」


眉をしかめてカードを見つめていると。


「違います。こう読むのでございます」


とセクシーメイドのひとりからカードの向きを横長方向から縦に変えられてしまった。

何だ、縦に読むんだ――って、よけいわかんなくなったって!

絹のような靴下に足を突っ込まされていた花梨は頭を掻きむしりたくなった。もちろん、鬼の形相で髪を整えているセクシーメイドのせいでやれなかったけど。


「古い形式を重んじる王族のしきたりだそうですよ。私たち庶民には読みづらくて仕方ありませんけれど」

「そうなんだ。でも、どうしてこの国の王が私を招待するのかな。王ってことはリベルトのお父さんなんだよね?」

「いいえ。リベルト殿下の御兄上でいらっしゃいますよ。ですが、リベルト殿下とはあまり仲がおよろしくないようです。あぁ、今話したことはどうか内密に」

「さぁ、出来上がりました。ヴィンセント様には先ほど連絡を入れております。王宮に駆けつけて下さるかと思いますので、それまでどうか気丈であらせられませ」


そんなセクシーメイド達の励ましが逆に恐ろしく思えるんだけど、王宮ってそんなに怖いところだったの?

いやいやいや。女は度胸だ!

空元気でこぶしを宙に突き上げて、花梨は刻印の入った豪奢な馬車に乗り込んだ。


「ふわぁ~」


先日少しだけ王宮に滞在していたけれど、あれって本当に王宮の一部だったんだな。

花梨がそんな感想を持ってしまったほど、今目の前にそびえ立つ建物の荘厳さに圧倒されてしまった。

でかい。しかも美しい。

口で説明するとこんな感じだ。つくづく自分の語彙力のなさが情けなくなるけれど。

花梨の知識からすると、よくテレビで見る外国のお城を三つほど横に並べた感じだった。多分、それぞれに建設の時期が違うのか、微妙に建築様式が違うけれど、一様に言えるのはどれも立派で美しい。

その中で、ひときわ大きな純白の城へと案内された。屋根に小さな尖塔がずらりと並んでいて、まるでそれがレースのように見えた城だ。これは白鷺城パートⅡとか名付けてみようか。某世界遺産のパクリだけど。

白鷺城パートⅡの内部は――いや、内部もすごかった。


もう嫌だな。

こんな世界が世の中にあるなんて。

いや、この世界は私が今までいた世界とは違うけれどさ。


足が沈み込みそうなふかふかの絨緞の上を歩きながら花梨はぶつぶつと呟く。

案内してくれている騎士らしき人たちがまったくしゃべってくれないからでもあった。

飾り紐などの装飾がちりばめられた軍服は、リベルトが着ていたものがシンプルに見えるほどきらびやかだった。とても実戦むきではない。

しかも、騎士達の容姿もどこか軟弱でそれでいてえらく高飛車な感じだ。

もしかして、貴族の子弟みたいな安全圏にいたい人たちがなる職業なのかな。

長い廊下を歩きながら花梨はそんなふうに思った。いや、そんなことをのんびり考えられるくらい長く廊下を歩かされたからだ。

しかも、通り過ぎる人が次々に花梨を見てぎょっとした顔をするのが何だか嫌だった。

そうだ。この黒い髪も黒い目もここでは異端だった。

ようやくそれを思い出して、思った以上にこの先に待っているのは苦難かも知れないと唇を引き絞る。


ようやく目的地にたどり着いたようだ。

ひときわ大きなドアが花梨の到着と共に開いていく。扉から真っ直ぐに絨緞が伸びている先に、誰かが座っていた。


「ほうっ。髪も目も黒いのか。これは面白い」


金髪に青い瞳を持つ体格のいい男が身を乗り出した。

リベルトと同じ色素を持っているはずなのに、何だろう。この男は薄汚れた感じがする。

花梨の第一印象はそれだった。








新キャラ登場! 新章に突入というところでしょうか。でも、近いうちに番外編を書きたいと思っています

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