第28話
すみませんっ。更新が遅くなりました!
魔力の色が見られるというのは、本当に特別なことらしい。
白の巫女の元へ訪ねることは生涯に一度きりで、自分の目で魔力の色を見られるわけではないけれど、自分の魔力について知ることができる貴重な機会のため、王族でさえその儀式を心待ちにするそうだ。
もちろん王子であるリベルトもそうだったと、エーメは言う。
ただ、リベルトの金色のオーラを見た白の巫女はずいぶん驚き、しかも気の力に当てられその場で倒れてしまったのだという。
強すぎる力は時に思わぬ禍を招く――そう、予言めいた言葉を残して。
それをかんがみて、リベルトの金色のオーラとその力の大きさに関してはトップシークレット扱いとしているため、エーメは花梨にもむやみに口外しないようにと忠告した。
三つ巴の戦いが終わってからの話し合いでのことだ。
「もうリベルト殿下のお力は十分なものですから今さらそれを知られても大丈夫かと思うのですが、一応念のためにですね」
エーメの苦笑するような顔を見て、花梨はむむむっと唇を尖らせる。
きっとリベルトには何らかの敵がいるのだなと思ったせいだ。
その敵とは誰なのかは、教えてくれなさそうだったけれど。
「ところで、カリン。もう片方のピアスにも魔力を入れなければいけませんね。さぁ、こちらにいらっしゃい」
カウチに座っていたヴィンセントが、隣の空いたスペースに差し招く。
「ちょっと待て。何もヴィンセントばかりが二度も試みる必要はあるまい。ま…まぁ、あくまで興味本位ではあるが、今度は私がやってみよう」
「兄上は素直じゃないですね。ですが、少々マズイのではないですか? 魔力の気の色がわかってしまうのですから、珍しい色を見て魔力の持ち主に興味を持つ者がいるかもしれません――あぁ、ここに滞在する間はカリンは誰の目にも触れないからいいのかな。でも、だったら僕も試してみたくはありますけど」
何だかまた気配が怪しくなったのを察して、花梨はいち早く決着をつけることにする。
「シピにやってもらうからいいよ。シピも魔力があるんだよね」
そう宣言したとたん、男三人から鋭い視線が飛んできて花梨は首をすくめる。
そんなに睨んでも知らないんだからね。
出来ればあんな気持ちの悪い感じをもう一度味わいたくはない。しかも、それを興味本位でやられたくないのが本音だ。特に、さっきはセクハラ大王のヴィンセントがやったせいで、特にあんなゾワゾワしたのではないかと思っている。ここは、癒しキャラのシピにお願いしたら結果は違うのではないか、と。
果たして――。
「――わ、ハチミツ色? あわい金茶かな。シピ、君の気ってこの色で間違いない?」
「ああ、カリン。大丈夫ですか。シピ、方法が悪かったんじゃないんですか? こんなにぐったりして、さっきの私より憔悴しているように思えますよ。だから私に任せなさいと言ったではないですか」
「リベルト殿下? 顔が赤いですよ。カリンの色気に当てられましたか」
「なっ。何が色気だっ。失礼なことを言うな、エーメ。こんな子供がぐったりしているのを見て私がどうこう思うはずがないだろう
ソファにぐったり凭れている花梨の周りでぎゃいぎゃいと男たちがうるさい。
いやいや、覚悟はしていたんだけど、ぴりりと電気が走った感覚はやはり慣れない。
シピだから大丈夫かなと思ったのに、耳朶から上がってきた刺激はヴィンセントの時以上に強烈で眩暈がした。研ぎ澄まされた気が真っ直ぐに突き刺さってくる感じだ。
しかも自分の中でふたつの異質な存在がせめぎ合っているせいで、刺激が長びいている気がする。ふたつの異質な存在とは、もちろんヴィンセントの気配とシピの気配だ。
ぴりぴりと微量な電流が肌の一枚上を駆け巡っている奇妙な感覚に花梨はあえかなため息をついた。
「もしかしてさ、両方のピアスに別々の魔力を入れるのはよくない気がする」
ブルーノに訴えると、彼は腕を抱えて考え込んでいる。
「そうかもしれないね。入れられた魔力の量も違うかも知れないし。じゃ、今度は両方のピアスに同時に魔力を入れてみようか。その時は僕にさせてもらうからね。きちんとデータを取らなくちゃいけないし」
「何でもいいから、あまり苦しめないでね」
いつまでもソファにのびている花梨を心配しているのか、シピが周りでウロウロとうるさかったから、花梨はようやく体を起こした。
シピの金色の目がきゅっと縦に細くなり、花梨の顔をじっと見る。
花梨の具合を観察しているようだからにっこり笑ってみせると、ようやく表情が和らいだ気がした。代わりに、金茶の毛で覆われた猫耳がわずかにたれる。
「平気。何かゾワゾワしてるだけだから」
まだ鳥肌が立っている腕を見せると、そこにシピの手が伸びてきた。大きな褐色の手が、花梨の腕を宥めるように撫でていく。
「っ……」
しごく真面目な顔をして懸命に花梨を癒そうとしているのか。触れるシピの手は温かく、しぐさには優しさが込められていた。
けなげな行為に見えるけれど、それをやっているのが猫耳の美男子なのだからちょっと厄介だ。
こんなこと、妙齢の女性に安易にやらないでよね、シピ。本人にはその気はないかも知れないけど、無意識にたらし込む行為だから。
花梨は心の声で訴える。
「ありがとう。もう平気」
固まっている男どもを見て、過剰反応される前にシピの手を押しやった。
ちょっと話を横道に逸らしたらひどい目に合いました。書くのがつらかった~。リハビリも兼ねて今回は短めの更新です。ごめんなさい。次回は少し話が動きます!