プロローグ
異世界トリップです。逆ハーになる予定です。
どうしてあの時、私はあの舞を選んでしまったんだろう。
50近くもある舞の内、壱の七「帰還」を選んでしまったのは偶然か。それとも運命だったのか。
後から、私は何度もそのことを思い、後悔するけれど、もう後の祭。
運命の輪はあの時から回り始めてしまったのだろう。
「ちょっと、草ちゃん。ここの後片付けどうすんのよっ」
「後でやるからっ」
「嘘ばっかり。ほんとは私に押しつける気でしょ――って、逃げ足だけは速いんだからあのバカ兄ーっ」
長い渡り廊下の角を駆け抜けていく双子の兄・草司の後ろ姿に花梨はもうっ、とうなり声を上げる。
後ろを振り返ると部屋いっぱいに広げられた日本刀の数々。
日本に銃刀法なんて出来た現在、ここまで刀を持っている家も珍しいんじゃないかな。
それを出すだけ出して後片付けを押しつけた草司が恨めしくて、花梨は大きなため息をついた。
眉唾かも知れないけど、何でも戦国時代から続くらしい武芸家の家系である黒宮家。
剣術はもちろん、柔術や中国拳法の動きも組み込まれた型なんてのもある。
その中でも、本家の男子のみに伝えられる剣舞なんてものもあって、そのために、黒宮家専属の刀士なんてものまでいるのだ。
そんな黒宮家の本家に花梨と双子の兄・草司は生まれた。
元来、後継は男子のみ。
だから女の子である花梨は蝶よ花よって育てられたはずなのに、気付けば、剣術では同年代の男子にも負けない腕前になっていた。
自分でも、剣術は好きだと花梨は思う。
けれど、それ以上に好きなのが剣舞。
本家の男子だけに伝えられる剣舞を、実は花梨も舞うことができた。
それは草司の稽古に毎回のようについていったからだ。
もちろん、何度も叱られたし剣舞は女性には教えられないと諭されたけれど、花梨の熱意の方が強かった。それ以上に、男系である黒宮家に113年ぶりに産まれた女の子である花梨に、親せき皆デロデロに甘かったせいもあるけど。
剣舞を習う草司をただ見ているだけしかできなかったけど、それで十分だった。
剣舞は嫌いだと言う草司と違って、剣舞が大好きなせいか、花梨はなぜか不思議と流れや型がすんなり入って来た。
だから、50近い剣舞を、実は草司以上にうまく舞うことが出来る。
難しい呼吸法だって、全部覚えてる。
けれど、女が舞うことは許されていないのだ。
男子のみ伝えられているってことからもわかるように、皆の前で舞うことさえできない。
この現代で、なんという男尊女卑!
だから、草司が本家の跡を継いだら、絶対革命を起こしてやるんだと誓っていた。
剣舞が嫌いな草司が舞うより、大好きな人間が舞った方が剣舞も喜ぶってもんよ。
「せっかく、滅多にお目にかかれない黒姫の刀まであるんだから、ちょっと舞ってみてもいいよね」
その前に、舞う場をつくるために片付けだ。
花梨は部屋に広げられた刀の数々を見回して、もう一度ため息をついた。
説明のみで終わってしまった。これから異世界に旅立ちますので、少し気長にお待ち下さい!