第13話
この世界の食べ物は、ある意味元いた世界とまったく違うし、すごくよく似ていると言ってもいい。
食べ物の見かけや味が違うことはあるけれど、その調理法についてはほとんど違和感がない。パンを焼くのもそうだし、生クリームをサンドしたケーキもあるのだ。
今日の朝食では、手に取る食べ物をその度に質問しながら食べたから、とんでもないものを食べたなんてこともなかった。
以前食べた、しいたけの食感でメチャクチャ甘いキューカンバーサンドイッチもどきは、上流階級でしか食べられない高級珍味だそうだ。
つくづく上流階級の人間は不思議なものを食する。
前の世界でも、高級珍味だと食べさせられた某海鮮もので、花梨は吐きそうになった経験があった。
普通のものでいいんだ、と改めて誓った花梨である。
「しかし、女の子というのは小鳥ほどしか食べないと思っていたが、きさまはよく食うな」
朝からの食べっぷりを見て、リベルトが感心したように首座から話しかけてくる。
「朝食は、一日の活力じゃない。今日はこれから少し鍛錬したいと思っているの。昨日、サボっちゃったから」
「鍛錬?」
「剣術をかじっているって言ったでしょ。少しサボると腕がなまるから、なるべく毎日やりたいの」
フルーツと生クリームたっぷりのトライフルもどきをスプーンで掬いながら花梨はこたえた。
花梨の言葉を聞いて、リベルトの表情がほんの少し曇る。
「きさまの世界では、女も剣を持たなければ生きていけないところだったのか」
リベルトのセリフに、花梨はおやと眉を上げた。
ついさっき、女が剣術を振るうなど笑わせるなんて豪語していたのに。
もしかしてリベルトは気遣っていたりする?
「そうじゃないよ。私の世界――ううん、私が住んでいた日本という国はとても平和で安全なところ。でも、私の家が代々武芸をたしなんできた家柄なの。私は剣術とほんのちょっとの護身術しかできないけれど」
「そうか」
「この世界にいる間、お姫様みたいにのんびりしすぎちゃったら、いざ日本に帰ってから苦労すると思う。だから、前と変わらない生活を続けなきゃね」
花梨がそう言うと、リベルトが痛みを感じたみたいに唇を歪めた。ほんの一瞬だったけれど。
「――きさまは、本当に帰る気なんだな」
「当たり前でしょ。ここは私の世界じゃないもの。髪が黒くて瞳も黒い私は、この世界にとっては異質なんでしょ。異物ははじき飛ばされると思うわ、その内ね」
「それは……」
「リベルトやヴィンセントだって、私のこと魔物だって口にするじゃない。それって、魔物と同じくらい私の存在が異質だってことでしょ?」
しごく当たり前のことを口にしたつもりなのに、向かいに座るヴィンセントも主席のリベルトも気まずそうに瞼を伏せている。
それでも、リベルトは気を取り直すように咳払いをした。
「しかし、きさまの話を聞いていると、とても子供とは思えないな。女性にはない冷静な判断を持っているし、考えもしっかりしている」
どうしたんだろう。
急に機嫌を取るような発言をしてくるなんて。
リベルトを怪しむも、その話題には花梨も歓迎した。
今まで何だかんだと後回しになっていた問題だったのだ。
「それ、訂正しようと思っていたんだ。私、多分二人が思っているような年齢じゃないよ。特にこれからお世話になるヴィンセントには覚えていてもらいたい。というか、メイドさんに徹底して欲しいんだけど、私子供じゃないから何でもひとりでできるからね」
「女性に年齢を聞くのは失礼だと思っておりましたので、それは失礼しましたね。では、実際はお幾つなのでしょう? 13歳くらいですか?」
ってことは、もっと下だと思っていたのか。
いくら童顔とはいえ、さすがに10歳以下だったりすると屈辱なんだけど。
「17歳です」
「……」
「……」
何ですか。急に黙り込んじゃって。
「あぁ、聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「えぇ、私もどうやら――」
しかも、聞き返すか。二人して。
「だから、17歳よ。数日前に17歳になったばかりだけど」
「――――ばかなっ、ブルーノと同い年だというのか」
だから沈黙が長いって。
でも、ブルーノも17歳だったんだ。
同い年~。何だか親近感もつなぁ。王子さまだけど……。
話が進んでない。次回から不定期更新になります。なるべく早く続きを書きます。というか、書きたい。