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第11話

「まぁ、可愛らしい。やっぱりカリンさまは白がお似合いね」

「御髪の美しいこと。結い上げても跡ひとつつかないですわ。やっぱりさっきの髪型がいいわね。結い直しましょうか」

「待って、待って。リボンはこっちのを使ってちょうだい」


ヴィンセントの屋敷滞在二日目。

花梨は今、苦境に立たされている。

鏡の前に立ったまま、部屋を埋め尽くすドレスの数々に花梨はため息をついた。


ヴィンセントの別荘であるこの屋敷は、裏手が王宮へと続く明るい森が広がっており、表には静かな水面をたたえる美しい湖、となかなか風光明媚なところにあった。

ヴィンセントの結界魔法がきいているとかで、魔物が出現することもなく、屋敷周辺の散策には許可なく出てもいいという。

だったらと、昨日は湖を軽く一周して戻ってきたら、屋敷は大騒ぎになっていた。

どうも、こちらの世界の女性は外をひとりであまりで歩かないらしい。

屋敷周辺の散策というのは本当に屋敷の周りを巡るだけだと、頭が痛いように額に手を当てたヴィンセントに聞かされた時には、そんなバカなと叫んでしまった。

以降、屋敷周辺の散策は禁止事項だ。

もちろん、それを守る気は花梨にもさらさらなかったけど。


けれど、軟禁という憂き目以上に花梨を苦しませているのは、今――。


「カリンさま、爪を磨きましょう。小さくてもレディであらねばなりませんからね」

「可愛らしい爪ですわ。湖にいる光貝のようにピンク色でお小さくて――」


花梨の周りをくるくると回るのは、セクシーなメイド服を着た女性たち。

胸元がそんなに広く開いたメイド服って、何か意味がありますか? 

胸の谷間が眩しい……。

小さなフリルで飾られた自らの胸元の、ささやかな膨らみに花梨はため息をついた。そういえば、同じやるせなさをつい最近味わった気が……。

いやいやいや。そんなことは今どうでもいいでしょ。


「もう、いいから。爪も磨かなくていい。そんな髪に飾りなんて必要ないしっ」


セクシーメイド達から自分の手を取り返して、花梨は今日何度目かになる主張をもう一度繰り返した。

実は、朝起きてから、この攻防は続いていたのだ。

朝食には王子リベルトがご一緒されるからと言われて、花梨は隅から隅まで磨かれ、さらには飾り立てられていた。

リベルトと会うくらいでおしゃれする必要なんてない。

花梨は思ったけれど、皆からすれば彼は王子という憬れの存在なのだろう。

朝食を一緒に取れる花梨を我がことのように喜んでいるセクシーメイド達を見ると、この苦況にもしばし甘んじていたけれど


「やっぱりダメだっ」


いい香りのする香油を爪に塗ってマッサージまで始められたとき、花梨はたまらず彼女たちの手を振り切って部屋を飛び出してしまった。


「あ、カリンさまっ。まだおリボンが結び終わっておりません」

「裸足のまま外に出るなんてとんでもありませんっ」


ひらひらと、視界の端で揺れる白いフリルのリボンを、花梨はえいやと抜き取る。

そのとたん、バサリと結い上げたはずの髪が落ちてきた。


「あー、失敗?」


まあいいか、と花梨は足を速める。

昨日夕食を食べたから、食堂がある場所はわかっていた。

後ろから追いかけてくるセクシーメイド達に諦めてもらうため、一刻も早く食堂に着かなければ。


「おはよう!」


ヴィンセントとリベルトの声が聞こえたから、ドアを開けてすぐに挨拶をした。

すぐ後ろまで迫っていた彼女たちの、この世の終わりのようなため息が聞こえた気がする。

目の前では、リベルトとヴィンセントが目を丸くして花梨を見つめていた。


「……おはよう?」


そんなにおかしいのかな。

花梨は自分の格好をもう一度確認する。

髪を下ろしっぱなしはそんなに悪くない気がする。問題は、ストッキングをはいていない足かな?

リベルトの視線が自分の生足に一心に向かっているのに気付いて、ひらりと、膝丈のスカートをほんのわずか持ち上げてみた。


「っう」


うめき声がして、リベルトが慌てたように鼻を押さえている。

あれ、失敗した?


「誰か。殿下に冷たい水を――。柔らかい布を用意なさい」


ヴィンセントの命に、セクシーメイド達が慌てて走り去っていく。

背中を冷たい汗が落ちていくような気分でいる花梨を、リベルトがぎろりと眼光鋭く睨みつけてくる。


「きさま、そんなふしだらな真似――やはり魔物だったかっ」


わけのわからないことをのたまうリベルトに、花梨は自ら冷たい水を用意するべく走り去るのだった。




ヴィンセントの章なのに(嘘)、最後あっさりリベルトが美味しいところ全部持っていきました。

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