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第9話

一部を除いて、テーブルに並んだ食事は美味しかった。

緑色のスープはトマトっぽい味がしたし、ウィンナーだと思ってかじったら中からとろりとした生クリームもどきが出てきたりで、口に入れる度にドキドキしたけれど。

けれど、これほど食事が違うと本当に違う世界にいるんだなと花梨は実感した。

寂しくもなったが、食べ物が合わなくて飢え死にすることはなさそうだと思ったのが本当のところ。


テーブルいっぱいの料理を最初は皆で食べるのだと思っていたけれど、他の人たちは食事を取る花梨を見てニコニコしていただけだった。どうやら、花梨の好みがわからないため、多めの料理を準備したらしい。

だから花梨の食事が終わると、別室に移ってさっそく話を聞きたいということになった。


「僕の方にも、もちろん君の方にも聞きたいことがいっぱいあると思うんだ。だから、ひとつずつ質問をしあうことにしよう。まずはカリンからどうぞ」


ブルーノから言われて、花梨は頷いた。


「うーん。まずはね……あ、そうだ。最初はブルーノ達の話している言葉がわからなかったのよね。それが、急にわかるようになった。それってどういうことかわかる?」


ずっと気になっていたことだ。

今、花梨の耳を飾る赤い小さな宝石がついたピアス。赤い宝石の周りに炎のような意匠が見たこともない青光りする金属で飾られているピアスはなかなか可愛いんだけど、これがつけられたときの痛みを思うと、もう片方の耳にもつけるかと言われたら絶対に嫌だ。

けれど、これをつけた後に急に皆の言うことがわかるようになった気がする。

それを言うと、ブルーノが急に目を輝かせたから驚いた。


「よくぞ聞いてくれたね。そうなんだ。それは僕の発明品の中で一番の自信作。同時通訳ができる機器だよ」

「同時通訳……?」

「そう。魔力を介在にした翻訳機。その赤い石は僕の血液を結晶化させたもので、当然、魔力も備わっている。それを君の言語を司る部分に作用するようメカニズムされたピアスなんだ。簡単に言うと、僕のしゃべる言葉を君の中にある言葉と結びつけるよう、魔法を使ったってこと」

「だから、あんなに痛かったの?」


まさに、頭をかき混ぜられたってわけだ。

魔法とかいう未知のものに頭の中をいじられて、よく無事だったなと花梨は今さらながらにホッとする。

花梨がそれを言うと、今まで得意げに話していたブルーノが急に大人しくなった。


「ごめん、それに関しては僕にもよくわからないんだ。今まで、5人の外国人に試してみたけれど皆痛みも何も感じなかったという。もしかして、君が魔法がきかないという特殊体質であるゆえだったかも知れない、魔法が強引に君の体に着床したから痛みが発生したという可能性がある。内からだった君の体にも魔法がきくのかも。それは今後少し調べてみた方がいいと思うんだ――――でも、だからってそんなことが痛い思いをさせた言い訳にはならないよね」


ブルーノが向かいのソファから立ち上がってくる。

花梨の目の前で跪くと、花梨が膝の上に置いていた手を取って見上げてきた。


「君に痛い思いをさせて、本当にごめんね」


何だろう。

こっちの人たちって、むだに色気を出すのが得意なんですかっ。

花梨は思わず顔を真っ赤にしてしまった。

わざわざ謝るのに、ここまでするーっ!?

気持ち的にはワタワタしていたけれど、顔が赤くなった上に取り乱すなんてみっともなくて、何とか根性で隠し通した。


「も、もう痛くないからいいよ。それに、言葉がわかるようになったのは助かったし」

「そう言ってもらえると嬉しいな。優しいんだね、カリンは」


隣に座ってもいい? と了承を求めてきたブルーノに頷くと、すぐに花梨の隣に座った。反対側にシェリーが座っているから、けっこうソファがぎゅうぎゅうだ。けれど、ブルーノは楽しげだった。


「それじゃ、今度は僕から質問をするよ。まず君がどこからやってきたのか、教えてくれるかい? 兄上の話では、君とは禁足のトーキの泉で出会ったってことだけど」

「うん。信じてくれるか、わからないけれど――」


花梨は、自分が異世界から来た話を正直に話した。

魔法なんて突飛なものが存在する世界だ。異世界旅行なんてものも、もしかしたら普通にあるかも知れない、と少し期待したのもある。

けれど、話したときの皆の反応は一様に驚いたものだった。


「ここではない世界からやってきたなんて、今まで聞いたことはないよ。そんなのが出来るのは、女神トーキぐらいじゃないかな」

「そうですね。移動魔法ということになるのでしょうか? しかし、そんな魔法が使える人間はいないと思いますよ」

「まぁ。だったらカリンは女神だということですか?」


ちなみに上から、ブルーノ、ナルシスト男、シェリーの発言だ。

シェリーのセリフには、花梨はソファから落ちそうになった。

シェリーって、最初からそうだったけれど、少しずれた――もとい、変わった反応をするよね。

それにしても、異世界トリップなんて神様レベルの荒技なのかと、花梨は少し心が折れそうになる。


「じゃ、ここから帰る方法なんてブルーノはわからない?」

「うーん、わからないね」


はっきりと頷かれ、とうとう花梨はがっくりうなだれてしまった。


「あ、でもこれでもいちおう魔法研究所の所長だから、そういう機械が作れるかどうか、試してみるよ」

「本当?」


花梨が隣に座るブルーノを見上げると、わずかに目元を赤くしたブルーノがしっかりと頷いてくれた。


「――困ったな。兄上のことを笑えなくなったよ」


そんなふうに独りごちながら。

ブルーノの独り言に顔を上げると、向かいのソファでナルシスト男も同じくしかめた顔で頷いているのを花梨は見た。



説明が続くと、話が先に進みません。もう少し説明が続きます。読んでいただいて、ありがとうございます。

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