帰り道を急ぐ
ヘイレング卿はあの岩場まで飛んだ。
コウモリの羽根を収めて降りると、そこに恋人の遺骸はまだあった。白いドレス姿の胴体が、岩にへばりつくように斃れ、少し離れたところに腐肉のついた頭蓋骨が転がっている。
「ミア」
それを大事そうに手に取ると、口づけた。
「帰ろう。人間の街へ」
松明を手に、魔女を先頭とした集団が、森の中を歩いていた。
「こっちよ」
魔女が黒い集団を導く。
「愛しいひとの匂いがするわ」
集団はリッチーを除いて顔が見えない。魂なきもののように、ただ魔女の指し示すほうへ歩いていく。
ヘイレング卿は追うものの気配を遠くに察した。いたわるようにミアの頭部を抱きしめると、急いで歩き出す。
「帰り道はどこだ」
息荒く、呟きながら。
「街へ帰る方向はどっちだ」
いつの間にかすぐ目の前に男の笑う顔があった。
金色の短髪の男が、いくつも鋲のついた黒いレザージャケット姿でそこに立っていた。
男はヘイレング卿とキスするほどの距離で、声をあげて笑った。
「ガハハハハハ!」
イケメンだが、わがままで粗暴な雰囲気を漂わせる男であった。
「誰だ!」
ヘイレング卿が後退りながら叫ぶ。
「ミカエル。そいつを殺るのはこの私だ」
金色短髪の男の肩を掴み、そう言って後ろからもう一人、男が現れた。
「このウルリッヒに任せろ」
ヘイレング卿は腕を3倍の太さに増幅させると、それをふるった。
3人の男が並んで飛び退いた。2人の筈が、いつの間にかもう一人増えていたのだ。
3人は横に並び立ち、それぞれに名乗った。
「俺はミカエル・ジェンケル。ガッハッハー!」
「私の名はウルリッヒ・ブイロート。春高楼の花の宴!」
「俺はマティアスヤプス・スコルピオ。最も無名だが最も長く魔女の用心棒を務める男だ!」