表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

脱走

「あら?」

 唇を離した魔女が首を捻る。

「毒が効かなかったかしら?」


 ヘイレング卿は顔を汗まみれにしながらも、弱る気配すらなかった。必死で身を捩り、棺桶の縛めから逃れようとしている。


「超即効性の筈ですのに……」

 魔女は鉄鍋の中の液体をゆっくりと搔き回した。

「超即効で苦しみはじめ、長く激しい苦しみの末にゆっくりと、ゆっくりと、死んでいく筈ですのに……。ジョリン・ジョリン・ターナー男爵との会話が長すぎたのね。液体にかかっていた魔力が飛んでしまったんだわ」


 そう言うと、呪文を唱えはじめる。


「海の子供達よ、集え、ここに。黒く血塗られた安息日にアイアンマンのパラノイドを捧げよ。天国と地獄の端まで煙アゲアゲよ。若くして死んだ夜を転覆させよ。首のない十字架に戦いの豚を……」


 ヘイレング卿は先程のジョリン・ジョリン・ターナー男爵の作ってくれた時間を無駄にはしていなかった。弱体化されたヴァンパイアの力を少しずつ、己を縛める薔薇の鎖に集め、緩くしていた。


「ガアッ!」

 渾身の力を込めて、両腕でそれを引き千切った。

「パァナマァッ!!」


「あっ!?」

 魔女が初めて慌てた。

「捕らえなさい! リッチー!」


「ジャンプ!」

 背中からコウモリの羽根を伸ばし、ヘイレング卿が天井まで飛び上がる。

「ゲット・ハイヤー! アンド・ハイヤー!」


 ハイトーンになるほど鋭さを増すその声に、リッチーは思わず聴き惚れてしまった。


「何をしてるの、リッチー!」


「……はっ? しまった聴き惚れてしまったわい!」


 慌てて追おうとしたが遅く、開いていた大きな窓からヘイレング卿は外へと飛び出していった。黒い大きな満月の中へ飛び込むように。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  デイヴなのか、サミーなのか、はっきりしてほしい点(笑)  ちなみに、私はサミー派です。 [一言]  呪文が素敵ですね。  さすがに、全文理解できるわけではないですが(汗)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ