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虹伝説

「虹伝説を届けに来ただと……?」

 リッチーが声を荒らげた。

「虹伝説は私のものだ!」


「あら。ジョリン・ジョリン・ターナー男爵様ではありませんか」

 タル・アイオミが手を止めて挨拶をする。

「立派なロングヘアーがないので気づきませんでした」


「魔女タル・アイオミ様。ご機嫌麗しゅう」

 会釈をすると、ジョリン・ジョリン・ターナー男爵は言った。

「私の髪の毛……あれはウィッグでございました。今は隠さずこのように晒しているだけのことにございます」


「惨めなものだな、ジョリン・ジョリン・ターナー!」

 リッチーが嘲笑う。

「恥ずかしくはないのか、このツルッパゲ!」


「恥ずかしい……? 惨め?」

 ターナー男爵は首を捻った。

「リッチーよ、貴方のほうこそ恥ずかしくはありませんか?」


「な……、なんのことだ!」

 リッチーが慌てて取ってつけたような前髪に手を当てる。


「まぁ……、よろしい」

 ターナー男爵は魔女のほうを向くと、頭頂を向けた。

「私から貴女へ贈り物を届けに参りました。どうかお受け取りください」


 ターナー男爵の頭頂が、ピカーッと光った。


「まぁ!」

 魔女タル・アイオミが感動の声を漏らす。

「虹色の光……! これが虹伝説ですのね!?」


「そんなものではない!」

 リッチーが怒りの声をあげた。

「私が創り上げた『虹伝説』とは、そのようなものではない!」


「リッチーよ。貴方にも、この輝きは、あるはずだ」

 ターナー男爵はリッチーの前髪を見つめながら、言った。


「な……、何の話だ!?」


「私は生まれつき無毛症でね。若い頃はそれを恥ずかしいと思い、ヅラを被って生きてきました」


「ヅラというな! せめてウィッグといえ!」


「ですが……本当の自分をさらけ出すことに決めたのですよ」


「隠せ! そのようなものは隠すべきだ!」


「ところがさらけ出してみたところ……、これが意外に……」

 ターナー男爵は、美しい張りのあるハイトーンボイスで歌った。

「愛されんだぁ〜」


「それが言いたかっただけか!」

 リッチーは罵倒した。

「それが言いたいためだけに貴様は出てきおったのか!」


「うフフフフ」

 魔女タル・アイオミが笑う、楽しそうに。

「よい趣向でございましたわ。ありがとう、ジョリン・ジョリン・ターナー様」


「では、これにて失礼」

 ぺこりとお辞儀をすると、ジョリン・ジョリン・ターナー男爵は帰っていった。


「な……、何だったんだ」

 ヘイレング卿が呆れて呟く。


「ようやく帰りおったわ!」

 リッチーが後ろ姿に唾を吐く。


「素晴らしいですわ、ターナー男爵様。本当のご自分をさらけ出されて……」

 魔女タル・アイオミが惚れ惚れするようにそう呟いて、リッチーを見る。


「な……、何が言いたいのですか!」


「なんでもないズラ」


「ず……ズラ?!」


「さて……エディー……。エディー・ヴァン・ヘイレング卿様」

 ぐるりと、魔女が振り向いた。

「わたくしも、貴方の前に、本当の自分をさらけ出しましょう」


「本当の……?」


 ヘイレング卿は少し期待をした。恋する女が本当の自分をさらけ出すということは、つまり優しくなってくれるのではないか、と。正気を取り戻し、愛し合っていた時の、160年前の彼女に戻ってくれるのではないか、と。


 鉄鍋の中から掬っていた紫色の毒薬を、魔女タル・アイオミが、おもむろに自分の口に含んだ。


 ほっぺたを膨らませて、ヘイレング卿を見つめ、言う。

「これはヴァンパイアにしか効かない毒。わたくしが口に含んでも、わたくしは死にません。さて、口移しで飲ませて差し上げましょうね」


「や……、やめろ!」


「愛しています。エディー……。わたくしの愛を、受け取りなさい」


 魔女の唇がヘイレング卿の唇に重なり、舌がそれをこじ開け、その奥から、焼けるような液体が流れ込んできた。





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― 新着の感想 ―
[気になる点]  それが言いたかっただけ(笑) [一言]  ウィッグ疑惑は詳しくないのでおいといて(笑)  スキンヘッドの方が、カッコいいひといますよね。  マルセル・ヤコブさんカッコよかったなぁ。…
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