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魔女と吸血鬼

「ミア!」

 ヘイレング卿は叫ぶように、声を漏らした。

「探したよ……。一緒に帰ろう」


 若く美しいままのミアだった。しかし花のような微笑みはそこになく、死人のような表情の眼球を動かして、冷たくヘイレング卿を見つめた。


 彼女は白いドレス姿で窓枠の上に立っていた。不吉な風が吹き抜けた。ガラスのない大きな窓に向かって、ミアの体が後ろへ傾く。


「ミア!」


 腕を伸ばしたヘイレング卿の眼前で、倒れた花瓶のように、ミアの体はまっすぐな姿勢を保ちながら、窓の外へと落ちて行った。


「ミアーーっ!」


 窓辺に駆け寄ったヘイレング卿は、見た。窓の下には27階の高さがあり、眼下には荒れた岩山が広がっていた。岩の上に咲いた薔薇の花のように、ミアが仰向けに斃れているのが見えた。


 躊躇なく、ヘイレング卿は飛び降りた。腕を広げ、黒いマントをコウモリの羽根のようにして、闇の空気を舞った。


 覆い被さるようにミアの上に着地すると、頭を上げた。ミアの背中は岩に突き刺さり、彼女の魂は既にこの世になかった。


「逝かせない……!」

 ヘイレング卿は自分の手首を噛み千切ると、赤い血液をミアの口元に垂らす。

「僕の血を飲むんだ! 僕と同じものになってくれ!」


 背後で女の笑い声が、低く聞こえた。


 振り向くと、赤いドレスに身を包んだタル・アイオミがそこに立っており、死神のような男を侍らせている。


「天国は黒く染まりましたのよ、ヴァン・ヘイレング卿」


 彼女の言葉の意味がわからず、ヘイレング卿は黙ったまま、目だけを困惑したように動かした。


「このわたくしを覚えてらっしゃらないなんて……」

 タル・アイオミの顔が憎悪の笑いに歪む。

「いえ……、そうね。あの頃とはわたくし、変わりましたものね」


 ヘイレング卿は急いでまたミアのほうを振り向くと、自分の血をその死顔に振りかけた。


「貴方はヴァンパイア」

 背後からタルが言う。

「ヴァンパイアの血はなんでもを可能にする力があると申しますわね」

 そして、嗤う。

「ですけど、わたくしの……魔女の力は貴方を上回るのです」


 ミアがカッ! と目を開いた。


 頭を起こすと、その美しい金色の長い髪がすべて岩に付着して抜け、大理石のような肌には罅が入り、顔の皮膚が砕け、腐肉の化け物に姿を変えた。口を大きく開き、ヘイレング卿の顔面に噛みつきにかかる。


「ウアアッ!?」


 咄嗟にヘイレング卿は身を守った。腕を振り、裏拳でミアの頭部を吹っ飛ばした。腐肉の剥がれた頭部は頭蓋骨の姿を露わにし、岩にぶつかって砕けた。


「……ゾンビにしたのか?」

 声を震わせ、タルを振り返る。

「私の最愛の人を……、貴女は生ける屍にしてしまったのか!?」


 タル・アイオミは誇らしげに笑っていた。


「リッチー・ブラックヘア」

 傍らに侍る死神のような男に命令を下す。

「ヴァン・ヘイレング卿を捕らえて地下の牢獄に監禁しなさい」


「はっ!」

 リッチーと呼ばれた男が、被っていたローブを脱ぎ、顔を露わにした。


 黒々とした前髪の嘘臭い、口髭は立派な男であった。大鎌を黒いストラトキャスターのように派手に振り上げるが、前髪は何かで固定したように動かなかった。


「ヴァンパイアの私に勝てると思うのか」

 ヘイレング卿がパワーを全身に込めると、彼の筋肉が七倍に膨れ上がった。


 しかしすぐに、それは収縮を始める。


 タル・アイオミの手に、怪しげな香壺こうごがあった。そこから漂う紫色の煙が、ヴァンパイアの力を無効化させる。


「わたくしは支配者」

 魔女はこう言った。

「貴方はわたくしに支配されるのです」






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― 新着の感想 ―
[一言]  わーい♡  ゴスゴスしいですね。  リッチー!!(ク○キーモンスターの「ク○キー!!」のノリで)  もう、作品全体が、黒くて♡  私に画力があれば、コミカライズしたいくらい(笑)
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