表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

198X年 人間の街

 200年ほどの時が経った。


 エディー・ヴァン・ヘイレングは西暦198X年の人間の街に溶け込んでいた。白いTシャツにジーンズ姿で、工場勤めの若者になりきっている。


 TV画面の中でヘビーメタル・バンドが演奏している。見知った顔が多かった。あの魔女の森で見知った者たちだった。皆、200年の時を超えて転生し、現代社会に溶け込んでいるのだと思うと、ほっこりした。


 永遠の時を生きる彼は、しかし孤独ではなかった。


「ハロー、エディー。調子はどう?」


 単調な作業の最中、工場長の娘がいつも気さくに声をかけてくれる。どこかミアの面影があった。巻き毛だったミアと違い短いストレートだが、美しい金色の髪が彼女を思い起こさせた。


「やあ、エミリー。絶好調だよ」

 逞しい胸筋を見せつけて、彼女の気を引こうと頑張る。


「ルーマニアから来たのよね? この国には慣れた?」


「ああ。アメリカはいい国だ。僕みたいな流れ者にも自由をくれる」


「それじゃ頑張ってね」


「あ……、あの……。エミリー」


「ん?」

 背を向けかけたエミリーが笑顔で振り向く。

「何?」


「こ……今夜、一緒にライヴを観に行かないか? 駆け出しだけど、いいメタルバンドを見つけたんだ」


「メタル?」


「メタルは嫌いかい?」


 エミリーは意味ありげな含み笑いをすると、答えた。

「あなたが好きなら私も好きになると思うわ。連れてって」







 エミリーは父親の工場で経理をやっている。仕事のままのスーツ姿でハイヒールを履いてやって来た。


「おまえらも蝋人形にしてやる!」


 歌舞伎のようなメイクを施した男たちがステージ上から黒くギラギラした爆音を奏でるライヴハウスで、エディーとエミリーは並んで立っていた。


「なかなか面白いわね!」

 クールな表情でエミリーがはしゃいだ声を出す。


「だろ!? 気に入った!?」


「気に入ったわ、エディー!」


 長い時を超えて生きてきてよかったとエディーは思った。






 ライヴ後にエディーは彼女を人気のないところへ誘った。森を見下ろす展望台だった。


「君を愛してる」

 エディーはエミリーを抱き寄せると、愛を語った。

「君なしでは僕はもう、生きられないよ」


「私もあなたが好き。エディー」

 エミリーの青い目が、彼を熱烈に見つめた。

「もう……狂ってしまいそうなほど、あなたが好きだわ」


 エディーは彼女に口づけた。エディーも気が狂ってしまいそうなほどに、その口づけは懐かしい味がした。


 がりっ! と、檸檬を齧り取るような音が、満月の下に響いた。


 エディーが驚いて身を引くと、下唇を齧り取られていた。唇を開いてそれを見せつけながら、エミリーが嬉しそうに笑う。エディーの血液を口の周りにつけて、それを咀嚼しはじめる。


「気をつけてって言ったでしょう?」

 エミリーが言った。

「恋に狂った女は誰でも邪悪なものだからって」

 その声に聞き覚えがあった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  みなさん無事に転生されたようで(笑)  そしたら、魔女も転生する……か。  ホラーっぼい、オチがよかったです。  エンディングテロップは「Lady Evil」が脳内で再生されました。  …
[良い点] ∀・)こういうホラーは読んだ事がないですね。とても斬新でした。ファンタジー的な作風でしっかりホラーをみせる事ができる腕前。さすがと尊敬します。なおかつ「帰り道ホラー」でもありましたね★ […
[一言] 一気に駆け抜けましたね。最高かよ! そしてあの人達も転生者だった? そしてまた追いつ追われつ……。 あ、テンプルウエスト男爵はローリー寺西です。サーセンw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ