終わりの始まり
今回から連載を初めていきます。
不定期で、かつ一話あたりも短めになりますが、どうか最後までお付き合いください。
「やめろよ!」
「なんだお前、そいつ見てたらみんな不快になるんだよ。庇うならお前もそうなるぞ」
「それじゃあ、君たちのいじめられたとか、いじめられそうって言い分は通らない。いじめているのはそっちの方だからな!」
「……つまんね、行こうぜ」
◇
「何やってんだよ!」
「なんなんだよお前、付きまとってんのか!? ストーカーか!?」
「違う! 君たちが目立ちすぎなんだよ! そんなふうにまたいじめて、恥ずかしくないのかよ!」
「うっせーよ、そんなに他の奴にやられたくないなら、お前が相手になれ……っよ!」
「………その行為そのものが駄目だって言ってるんだ。僕相手でも許さない」
「なんだこいつ、俺の全力を喰らってピンピンしてやがる……!」
「キモっ、行こうぜ」
「あの……助けてくれて———って悠真くん!? 突然倒れて大丈夫!?」
◆
日差しが照って、人混みもあって暑苦しいのに、何故かどこか寒い街。それが東京。
日付が変わる間近まで更けた深夜の東京駅は、いくら夜遅いといってもあまりに人が少なく、暑苦しくなくただただ肌寒い。
僕———結城悠真は、親友の上田一希や間野卯月と共に、〝ある怪異〟を見に来た。
「深夜の東京駅にこの世のものとは思えない、おぞましい怪物が現れる」という噂を卯月が仕入れてきた。真っ先に食い付いた一希に誘われて、僕は初めてかもしれない東京で日付の変わる瞬間を体験することになろうとしている。
「東京ってもっと美味いモン出してる店が密集してるイメージあったけど、案外そんなことないな」
「まあ、そんなにたくさんご飯屋があっても仕方ないし、こんな時間にやってるところも少ないだろうし、見つからなくても普通だと思うな」
悪戯っ子みたいに笑う一希に、僕は言葉を返す。
「それにしても、最近一希かなり筋肉ついたよね」
「お、わかる? 頑張って鍛えてんのよ。ちょっと触ってみるか?」
「いいの?おっ、すげえ」
一希は袖を捲り、肘を曲げてがっしりとした力瘤を作る。誘われるがままに触れてみると、コンクリートのように硬い。
すると、缶を抱えた卯月が、小走りで寄ってくる。
「はい、コーヒー二人の分ね。いつ見られるか分からないし、カフェインで目を覚ましておこうぜ」
「気が効くね、さんきゅ」
一希は卯月の差し入れに、躊躇いなく口を付ける。「にがっ」と顔を顰める一希に対して「ブラックだからね」と笑う卯月は、僕にも一本差し出してきた。
「うわ、お前よく平気で飲めるな」
若干引いたような視線で僕を見る一希。だがそこには尊敬が含まれている。
「苦いけど、美味しいからね」
「俺には分からねぇなあ」
「やーい子供舌」
卯月の挑発に対して、無言で掴みかかろうとする一希。それは次第に追いかけっこの形になり、寒気がするほど無人の東京駅を走り回っていた。
僕はそれを遠目で眺めていると、人影が一つ。
目を凝らして見てみると、それはあまりに時代錯誤な格好をした男。
———武士だ。
なぜ武士が現代の東京駅に?
しかも、刀をギラつかせて。
………刀をギラつかせている。
僕の人生は、そんなくだらない疑問で幕を閉じた。
それ以降何も考える暇もなく。
袈裟斬りだったな。肩からバッサリと斬り裂かれて。
文字通り叩っ斬られた。骨ごと綺麗に。
即死できていただけマシだった。
もしもあのままくたばり損ねて、意識が残っていたら。耐え難い激痛に精神を抉られる最悪な生き地獄だっただろう。
何故、こんなことを自覚しているのかって?
———それは、次に気がついた時、僕はあの世にいたからだ。
この他、カクヨムでは一話完結の短編も投稿しております。よければご覧ください。