二度目の春
季節は巡り、また春がやって来た。
桜の花芽が開き、ほころび始める。春先特有の強風が公園へと吹きつけていた。
春風の匂いを嗅ぐと俺は、初恋のあの日のことを思い出す。
叶わぬ恋となってしまった、櫻井さんへの想いが芽生えたあの春の日のことを。
***
クリスマスイブの前日、この公園でラブレターを差し出した俺は、彼女に思い切りフラれた。
なんと十一月の後半くらいに別の男子……同じ部活の先輩から熱烈な告白をされ、受けたのだという。
それであんなに帰るのが早くなっていたのかと妙に納得すると共に、脈アリなんて思い込んでいた自分を恥じた。
彼女はすでに他の男のものだった。
先輩を語る櫻井さんの瞳はいつになく活き活きとして見えて……一瞬で敗北を認めざるを得なかったくらい。
初恋なんて大抵叶わないものだ。
そして俺の初恋もそうだった。
ならなぜこうして今も彼女と過ごせているのかといえば、あの日、「友達としてなら、別にいいけど」と言われたからだ。
夏の日の「まずは友達から」という言葉を覚えていたらしい。もっとも、その後の段階はないわけだけれど、失恋を拭い切れない俺にとって彼女の隣にあることをひとときであったとしても許されるのは救いだった。
友達になってからも、二人でどこかに出かけたり互いに家にお邪魔したりするようなことはなく、今までと全く同じ日常を続けている。
桜が次々と開花し、満開になろうという頃でもそれは変わらない。
きっと俺たちは、これからもここで会い、このベンチで別々の本を読みながら過ごすのだろう。
二度目の春も、夏も秋も冬も、そして三度目の春も、きっと。
そのうちに俺も失恋の傷が癒えて、新しい恋を見つけるのかも知れない。それはまだわからないことだ。
櫻井さんがもし彼氏と別れてくれたなら……なんていう風に考える悪魔的な自分がいることにはとっくに気づいていたが、それは見て見ぬふりをし続けるに違いない。
俺は櫻井さんの友人。
それ以上でもそれ以下でもないのだから。
しかしせめて、桜を背景にして座る彼女の美しさに見惚れるくらいは許してほしい。
彼女の艶々とした長い髪が春風にそよぎ、暖かな陽光に煌めくそのさまに目を奪われるのは、仕方がないことなのだ。
胸の中に疼き続ける失恋の残骸を押し留め、俺は横目で彼女の姿を見続ける。
しかし櫻井さんはそんな俺のことに気づいているのか気づいていないのか、春の日差しのもとでただただ読書を続けるのだった。




