冬
木枯らしが吹き荒む冬。
例の公園の桜の木はすっかり葉が落ち、枯れ枝同然となった。そんな寂しい公園のベンチに、やはり櫻井さんの姿はある。
もふもふのコートを羽織り、ニット帽をかぶって、相変わらず読書に勤しんでいる。
しかし彼女の手は小刻みに震えていて、寒さに耐えているのがわかった。
「寒いなら、俺の部屋に来る?」
俺は思い切って誘ってみた。
別のことを口実にして連れ込み、そこであんなことやこんなことをする、というのはありがちな話だ。
ある程度好感が互いにあると確信できる相手なら、やってもいい手口のはずである。
だが――。
「余計なお世話」
その一言で、俺の野望は砕かれた。
誘い込む作戦が無理なら、堂々と告白せねばなるまい。
折れそうになる心を強く持ち、計画を練る中で俺は、櫻井さんの行動の変化に気づいていた。
彼女の公園での読書時間が短くなったのだ。
「今日は帰る」と言って、俺が公園に辿り着くとほぼ同時に引き下がって行ってしまう。それが本当に寒いせいなのかどうか、俺は自信がなかった。
あの一件で嫌われたのではなかろうか。女を簡単に連れ込もうとするふしだらな男と思われたのかも知れない。
頭によぎるそんな考えを払拭できない。もしそうならこれ以上のゴリ押しはさらに嫌われてしまうことになりかねないわけで。
「どうしたらいいんだ……」
雪混じりの風を浴びながら、俺は重いため息を吐いた。
***
そんなこんなで十二月も後半。
街にはイルミネーションがキラキラと輝き出し、教室でもリア充どもが騒いでいる。
それもこれもクリスマスが近いからだ。
俺はいよいよ覚悟を決めなければと思った。
そして決戦の日に選んだのはクリスマスイブの前日。
どっさりと雪の降り積もった地面を踏み締め、公園へ向かう。そこには眼鏡を曇らせた櫻井さんがいた。
「……来ると思った」
「そりゃあ来るよ」
「クリスマスパーティーへのお誘い?」
「いいや」
俺はごくりと唾を飲んだ。
「櫻井さん。これを受け取ってください」
そして彼女へと差し出したのは、昨晩寝ないで書き続けた手紙。
クリスマスデートへのお誘いという名のラブレターだった。
それを受け取った櫻井さんは、眼鏡の奥の瞳を戸惑うように彷徨わせて。
直後、俺に突き返した。
「悪いけど、私、もうクリスマスもクリスマスイブも用事あるの」
「え……」
櫻井さんのようなぼっちが、一体どんな?
不穏な予感が胸に込み上げる中、彼女は言った。
「私、彼氏いるもの」




