地底人を拾っちゃいました
都内某所。
それは春が終わり夏が来ようとしている
雨の季節の頃だった。
ある日
私は
出会ってしまった
そう、
地底人に。
最近奇妙な事件が続いている。
何でも、荷物に紛れて国外へ行こうとしたケチな大学生が空港で捕まったらしい。
捕まった時、大学生は
「3日も飲まず食わずで死ぬかと思った。」
とかなんとか言っていたそうだ。
でもそれはTVの中での話。
私の近所はいたって平和で退屈そのものだった。
しかし、最近妙に面白いものを見つける。
その日も、ひどく暑い日だった。
私が珍しく拾ったお金でジュースを買った帰り道、
いつものように右手をズボンのポケットに手を突っ込み
左手でハンドルと空き缶を持ちながら何か面白いことはないかと周囲を見回していた。
うちの近所の牛丼屋の前を通ると
自転車を布団代わりにし段ボールの上で寝ている大きなモグラを見つけた。
コイツは一言もしゃべらないが私にはわかる。
「コイツは間違いない地底人だ」
と、 確信した。
夏だというのに全身毛だらけの姿。
身長は160cm位だろうか。
全体像はモグラを大きくしたような感じで、目が全く見えない。
寝ていると、表現したが目はないため目があるのかわからないが、
とんがった大きな鼻をひくひくさせ横になっている。
鼻は2リットルのペットボトルくらいの大きさで
ふご~ふご~と、音を手たて続けている。
その鼻の先端からは6つほど、大きなひげが生えているのが見えた。
「結構長いな…。」
私はこういうのは関わらないほうが良いと。
そのまま、無視し通り過ぎようかと思った瞬間
コイツは目覚めやがった。
「ミ~」
…英語、だろうか?
「……」
「ミミュミミミ~」
経験的に、コイツの言っていることがわかる。
「わかった。」
コイツは私に名前を求めているんだ。
いつまでもコイツじゃ可愛そうだから私はコイツに名前を付けてやることにした。
「ん~?地底人っちでどうだ?」
「ミ~!!!」
とりあえず、気に入らんみたいだ。
「仕方ないな…。」
手がモグラみたいだから…
「もぐ次郎でいいか?お前のことそう呼ぶぞ?」
「ミ~?」
喜んでいるのか?
「もぐ次郎!」
もう一度呼んでみた。
さっきよりも反応はいい。
とりあえずOKってことだろう。
「いいか?もぐ次郎、私はあなたを助けない。じゃあな!」
「ミ~~~!!!!!!」
「そうだ。できないんだ。わかってくれ。もうバイトの時間なんだ。」
手にしているかぎづめで必死に私を捕まえようとするもぐ次郎。
「いてえいてえよ!」
それでもやめないもぐ次郎。
「いってーな!!」
思いっきり蹴り飛ばすとそいつは壁にぶつかり、大人しくなってしまった。
「わかった、わかったよ。助けてやるから」
…反応はない。
とにかく私はもぐ次郎が所持していた段ボールの一部を少しだけいただいた。
「……。」
「ちょっとだけもらうぞ。そんな顔すんなよ!」
そして筆箱からマジックを取り出しメッセージを書いた。
「もぐ次郎、これあげる。」
「…………。」
そう言ってもぐ次郎の首に段ボールを括り付けた。
「これつけてたら、きちんと助けてくれる人が現れるから!」
そう言うと動かないもぐ次郎を引きずって、おとなしくその場に座らせた。
しっかしもぐ次郎のヤツ、ホントに大人しくなりやがって!
メッセージにはこう書いた。
『私は外国人です。故郷のスウェーデンに帰る飛行機代が足りなくなったので家に帰れません。飛行機代は¥40,000です。お金をください!』
地球の反対側っていえばブラジルだろ?
その間はっていうと…スウェーデンだろ!?
「これはサービスな。」
そう言い、私は手に持っていた空き缶をもぐ次郎のそばに置いた。
「……。」
「ったく!礼の一つぐらい言えよな!コイン入れだよ。道歩く人にもらえ。」
ついでにひげも素敵に書いておけばばっちりだろうと思い、
少しだけメイクを施した。
もぐ次郎のあご部分にダンボールに引っ掛かけると
何度も、何度も
カクンカクンとお礼をする。
何度も何度も繰り返す。
まるで人形のよう。
地底人ってのはとっても律儀なやつらしい。いいことをした。
そのまま、帰ろうかと思ったが…いや待て。
牛丼屋の近くだ客は多い。
しばらく遠くから様子を見ることにした。
まず、彼に一番近づいてきたのは男女合わせて5人のヤンキー達
しっかし、ヤンキーってのは
工具を持つのがブームなのだろうか?
一人はつるはし。
一人はリヤカー。
一人はスコップ。
一人はハシゴ。
残りの奴はフライドポテトとダーツを両手いっぱいに持っている。
…こいつらはいったいどこに、向かってるんだ?
「だははは」
「きゃはは~」
「本物~?」
…もぐ次郎のヤツ、なんか笑われてるが?
「ねぇ~ツエーデンって強いのかな?」
ス・ウェー・デ・ン!!スだス!!
「さぁ?俺の方が上じゃね?」
…たぶん、正解だ。
「お前、さっきから黙ってるけど、俺たちのことなめてるのか?」
何も言わないもぐ次郎にヤンキーの一人がキレた!
カツンカツンとスコップで脅すヤンキー。
「俺たちは、地元じゃちょっと名の知れてんだよ!」
「こんなやつ一発殴ってもいいんじゃね?」
ヤンキーの一人が言った。
とりあえず、もぐ次郎のヤツ危ない。
いや、だが、しかし。
もう夕方の6時だ。私もおなかが空いた。
気になるけどそろそろ、帰ろうかな…。
…いやいや待て。
…やっぱ、帰ろう。
私は、こうして家に帰ることにした。
―翌日―
もぐ次郎のやつはどうしたのだろう。
昨日はさすがにボコボコにされてるだろうと思い、
奴のいた牛丼屋の前に行ってみた。
「…いるじゃん。」
相変わらず自転車を布団代わりに、
ダンボールを敷いて座っている。
今日は寝てないみたいだ。
壁によしかかっている。
何だろう。
鼻が90度に曲がっている。
まるで、鼻に花が咲いてしまったようにきれいに曲がっている。
昨日のヤンキーたちだろうか?
ヒドイことをする。
私を見ても何も反応しないもぐ次郎。
かわいそうに、人間不信だな。
「そうだ!待ってろ、もぐ次郎!お前がもう殴られないようにしてやるからな!」
そうすると私はもぐ次郎の顔に
二重丸を書き込んでやった。
真ん中は真っ赤な色。
腫れていたとしても目立たないようにしてやったわけだ。
「…元気か?もぐ次郎。これでお前は殴られないからな!!」
私は思わず、彼に語りかけた。
「!!」
少しだけ喜んでいるのだろうか何度もカクンカクンと頷いている。
そして私は、昨日彼に渡した空き缶に目を向けた。
「…帰りの飛行機代、集まった?」
そう言い、彼の手にしていた空き缶を振ると…
「結構あるじゃん。」
数えようとしたとき、もぐ次郎のそばにあるものを見つけた。
「…ん?」
しかし、ひどい人間もいるもんだ。
ゴミだろう。
リヤカーに、ダーツ、そしてスコップが捨ててある。
「もぐ次郎!お前、日本ではこれはいけないことなんだからな!!注意しろよ!」
「……?」
何度も、何度もうなずくもぐ次郎。
しっかり計算した結果、
たった一日で¥819円も集まってやがった。
しまった…。
コイツの出身地、
スウェーデンじゃなく茨城ぐらいにしておけば良かった。
そしたら、茨城の土だったら自力で掘って帰れたのに。
まぁ、仕方がない。
もぐ次郎にはスウェーデンに帰ってもらわなくては。
「もぐ次郎!!一日でこれだけ稼いだんだからあと、数日で帰れるぞ!」
またまた頷くもぐ次郎。
今日の一人目のお客さんは
8歳くらいの子ども。もちろん親もいる。
「ん?あの人…。」
私はあいつを知っている。
先週も見た。親子。
金髪の母ちゃんに後ろ髪の長い性格の悪そうな子ども。
「ママー?あれ~」
「ダメよ。あんなの見ちゃ!」
予想通りの反応にちょっとがっかりだ。
「ねぇ~、あれに石投げていいでしょ~」
「ダメだって言ってるでしょ!石なんて投げるんなんて!!」
「だって投げたいんだもん~」
…子どもって怖い…。
「あっ!!」
子どものヤツ、なんか見つけたらしい。
「ダーツだ!!」
近くに落ちていたダーツを見つけた。
おそらく、昨日のヤンキーたちが置いてってゴミ…。
まぁ、子どもが欲しがるんだから再利用されてていいよな~。
「ねぇ~ママ~、ダーツ投げていい?」
「ダーツなら、いいわよ~」
そう言うと、子どもはダーツを投げ始めた。
…もぐ次郎の◎に。
「えいっ!!」
はじめは肩に当たった。
「くそ~外れた!もう一回!!えいっ!!」
次はお腹に当たる。
何度も何度も繰り返す子ども。
「あの子ども…なんてことしやがる。」
もぐ次郎がかわいそすぎる。
失敗した。
殴られずにすんではいるがこれでは
いつ顔に当たるかもしれないという恐怖におびえなくてはいけない。
「次は赤の的に当てるぞ~」
それ、鼻。
上に曲がってるけど鼻ね。
「えいっ!!」
何度も顔には当たるのだが、刺さらずに落っこちる。
「はやく止めを刺しなさい。いい加減行くわよ~」
「は~いママ~」
しかし、もぐ次郎のヤツこれだけされても怒らないんてなんて大人なんだ。
「くらえ、最後の一撃!」
しかし子どもの一投は外れた。
「お前なんてば~~~か。」
子どもはなぜか捨て台詞を言い去って行った。
予定通り募金なし。
母の財布のひもは固い。
せめて、ばんそうこう代ぐらい払え!!…って思うのは私だけだろうか。
いつまで経っても目標の資金がなかなか貯まらず困る。
「ったく、しけてるな!もっと募金してくれてもいいのによ!」
頷くもぐ次郎。
…あっ、肝心なことに気が付いた。
「お前、パスポート持ってんのか?」
頷くもぐ次郎。
「マジか?お前素っ裸なんだぞ?持ってるわけねーじゃん」
すげえ落ち込む。もぐ次郎。
「でも、私には秘策があるんだ!聞け!!」
頷くもぐ次郎。
「知らないのか?お前実はモグラなんだぜ?」
びっくりしているのだろうか?
全く動く気配のないもぐ次郎
「もぐ次郎!いいか、ここからまっすぐ下に向かえば、スウェーデンにつくからな!!私が少し掘るの手伝ってやるから、あとは自分で頑張るんだぞ!!」
頷くもぐ次郎。
「もぐ次郎!とにかくお前下に敷いているダンボールの中に入れ!今から近くの河原まで運ぶから!」
そうすると、私はもぐ次郎をダンボールの中に入れる手伝いをした。
「軍手ぐらいつけとくかな…」
しっかし思った通り。
もぐ次郎のやつも小柄で体もやらかいからダンボールの中に入る。
「ったく、お前よ少しは自分で動けよ!!」
たぶん、奴は隠しているが
地上では力が出せない体質なのだろう。
まるで死んでいるかのように動く気配がない。
仕方がない、
少しだけ長い鼻が入らなかったので、
ダンボールに折りたたんで敷き詰めてやった。
「しっかりと封をして…と」
私はカバンから粘着テープを取り出ししっかりと固定した。
しかしもぐ次郎の奴は運がいい。昨日のヤンキーたちのごみが使えそうだ。
私は近くにあったリアカーでそのダンボールを乗せ近所の河原まで運んだ。
近くに人がいたら事情を説明し手伝ってもらおうと思っていたが
「ったくこんな時に限って人がいねぇんだから!!」
そうこう言う間に河原についてしまった。
河原につくと私は一生懸命に穴を掘った。
穴が深くなってくると出られなくなるためハシゴを使った。
もぐ次郎が帰る道を少しでも短くしてやろうと、できる限りのことをした。
2m位掘っただろうか?大きな穴ができた。
私の後ろにあるリヤカーに乗ったダンボール箱を取り出す。
…疲れてるな。重くてなかなか持ち上げれない。
すこし休憩だな。
すると、穴のちかくの方で
「ああぁぁぁぁ~」 ドサッッ
なんて音が聞こえた。
誰かいるのか…?
「そうだ!手伝ってもらおう!!地底人が帰るんだ!」
後ろを振り向くと、誰もいない。
穴の奥も暗くて何も見えない。
きっと、私の空耳だったのだろう…。
誰かに手伝ってもらいたい精神がそんな音を聞かせたのかもしれない。
そんなこんなで穴にもぐ次郎を見送る時が来た。
「じゃあなもぐ次郎!元気でな。」
そう言いながら、ダンボール箱を穴の中に投げ入れた。
「うげっ!!」
暗くてよく見えないが、なんか聞こえた様な気がする。
…分かった。地底人のお礼だ!
私はこれだけ頑張ったんだからな!!
それから、スコップで穴を埋めた。
土をかけながら気が付いた。
穴を2mくらい掘ったはずなのに
もぐ次郎の入ったダンボールは地上ギリギリにある。
う~ん?何か下にいるのか?
いや、きっと地底人の魔力かなんだろう。
地上では力が出なかったもぐ次郎も
きっと地中では自由自在なんだ!!
そして…無事、穴埋め完了。
地底人のもぐ次郎は無事に帰れることだろう。
私はほっと一息をついた。
ここには
地底人との友好の証である『スコップ』と
この送り届けるために使用したマシン『リアカー』がある。
私達の友情の証である『ハシゴ』
それらをここに置き、思い出とすることに決めた。
そう、別れって奴は引きずっちゃいけない。
―――
夜空を眺めると時々思う。そう。
私の友達の地底人のことを。
今頃は無事故郷の空気を吸っているだろう…。
いつかまた、出会うのだろうか。
あの目がない地底人に。
それにしても、いいことしたな~
地底人を送り届けるだなんて。
「あれ?そういえば、日本とブラジルの間ってスェーデン?海だったような…?」
それからというもの、
やっぱり事件らしい事件なんてものはない。
いや、そうでもないか。
最近近所で事件があった。
―――臨時ニュースをお伝えします。
河原で見つかった2人の死体ですが…
検証の結果都内某所にすむ会社員男と…
近隣に住む着ぐるみを着た被疑者には…
顔に何度も所針で刺されて様な後があり…―
最近、近所の川辺で見つかった2人の殺人事件があった。
なんでも容疑者は5人組のヤンキーグループ。
「俺は死体なんてうめてーねーよ!」
なんて言ってるらしいが
現場に残されたスコップには犯人の指紋がべったりらしい。
いやあ、世の中って怖い怖い。