あ
ゴブリンの死体は元からくれていたこともあり、悲惨なことになっていた。
すぐ近くで起きた爆発でかろうじてつながっていた四肢が吹き飛び、腹の中身は散らばっていた。
「……悪いルティア、より悲惨な事になっちまった。」
(………もうよい、どうせただの屍じゃ…………。いや、………むしろ我の事を憂いてくれたのじゃから………ありがとう、リヒト。)
明らかに声に暗さが出ているが……流石に錯乱なんて事にはなっていないようだ。
人を殺す為に生み出した魔獣が、自分が守る為に戦った亜人を食らう所を見たのだから………気が滅入るのは当然だが、そこで『ただの屍』なんて言葉を言える辺り…………やはりただの幼女では無い事を再認識する。
「………ん、なんだこれ。」
散らばってしまった肉片を眺めていると何か輝く物があることに気付く。
血が付いているが…………拾ってみるとどうやら水晶の一種の様だ。
赤い水晶、特に加工はされていない為鈍くはあるが……それでも僅かな輝きを放っている水晶に穴を開け、そこに細い紐が通されている。
「返してっ!!!!、」
高い、叫ぶような声が後ろからした。
振り返ってみるとそこにはゴブリンが二人いた。
ただでさえ背の低いゴブリンだが、この2人はより低く……まだ幼い事が伺える。
「姉ちゃん、ダメだって!。人間だよ!!殺されちゃうよ!!。」
「うるさい!!、おい人間!!それ返せっ!!。」
1人は少女で俺に向けて殺意を顕にしている。無理やりにでも取り返そうとする気迫だ。
もう1人はゴブリンの少女よりもう一回り背が低い、恐らく弟だろう。こちらは俺を怖がっている。
「こいつはお前らの兄だったのか?。」
「そうよっ!!、だから早く返せっ!!!。」
俺の態度が更に彼女を刺激してしまったらしく、ゴブリンの少女は足元に落ちていた小石を拾って投げつけてきた。
「そうか……………。」
対して早くは無いので身を捻り避ける。
そして2人の元へ雑に距離を詰めていく。
「姉ちゃん!!、こっち来てるよ!!逃げようよ!!!。」
「うるさい!!、逃げたきゃ1人で逃げなよっ!!。」
弟が姉の腕をつかみ引っ張ろうとするが、流石に力の強い姉には叶わず2人は以前その場にいた。
そして2人の目の前まで行く………、並ぶとその背は俺の腹部より低い。
「……ほら……。お前らの兄貴をあんなふうにしちまって悪かった。俺も善処したんだが………ダメだった。」
そして、その顔の前に水晶の装飾具を持っていく。
「………え………、返してくれるの?。」
するとゴブリンの少女は驚き、おずおずと水晶を受け取った。
「お前らの兄貴の物なんだろ?。俺が持つよりお前らの方が持つに相応しいだろ。」
「そ、そうだけど!…………。でも、人間が私達の言う事を聞いてくれるなんて……………あなた一体何なの?。黄泉の森の奥の方から来てたし………。」
黄泉の森?………ここはそんな風に言われてたのか。
(むむ、黄泉の森とな?。それでは我の墓があるかのようでは無いか…………。)
実際墓場と言う区切りで間違いないとは思うが……、単純に入ったやつが帰ってこないからそう呼ばれているのだろう。
「俺が何なのかって?………さあな、俺が知りたいくらいだよ。分かっていることは一応人間で、知識は有るのに記憶が無いって事くらいだな。」
俺が何なのかは俺も知らないし、俺も知りたい。
………だが、きっと知る術はないだろう。誘拐されて記憶を消された等では無いのだ。
そう、俺はまだ産まれたばかりなのだ。産まれたばかりで自分が何者とも言えない状態………普通の赤子ならその時に自分が何者か…等とゆう問は思い浮かばないが、知識や確かな人格がある状態で産まれた俺は答えの無い問いを勝手に作り上げていたのだ。
「………すまん、今のは間違いだ。俺はリヒト、別に何者でもないし……何者かはこれから決まる。」
………一応、出自については隠しておいた方が良いだろう。
過去の大戦で封印された魔人、ティルア・ティアノートの息子だと言ってしまえば……それを信用されてもされなくても面倒だ。
たが、こんな意味不明な自己紹介で受け入れて貰えるものか……
「そっか。じゃあ普通の人間じゃあ無いんだね。……石を投げてごめんなさい………あとあいうに当たりに行ったのはお兄ちゃんの為だったんだね。……ありがとう。」
驚く事にすんなりと受け入れて貰えた。
さっきまで憎い相手だとゆう視線を向けられていたのが嘘のように………、
(ゴブリンはそこまで賢くないからのぉ。騙されやすいのじゃ………『純粋』とも言えるが。)
なるほど、
過去の事もあり……だから人間とゆう大別で敵意を向けてきたわけか。
お前ではなく人間………人間そのものに対する敵意、
差はあるだろうが、ゴブリン達にどの人間が良くてどの人間が悪いとゆう判断は少し難しいのだろう。
だから平均して害のある人間を人間とゆう種その物で警戒する……それがゴブリン達なのだ。
「優しい人間も居るんだな………。驚いたぞ。」
「基本的には悪いヤツだから……普通は人に近づいたらダメだぞ?。」
恐らく、俺みたいな特殊なケースを覗いて………人間がゴブリンに対する反応なんてほぼ1つだろう。この子達の為にも人に近づかない様に言わなければ。
(……リヒトよ、ゴブリンがこの森で生きていけるとは思えん。きっと入り込んできたのじゃろうし……外に案内してもらってはどうかの?。)
ルティアが囁く。
………確かにそうだ、すぐそこで仲間が食われるような場所で暮らしたいとは思わないだろう。
恐らく、行動範囲内に村がある筈だ。そしてそこは森の中でも安全な場所か……森の外の可能性が高い。
「………実は2人に頼みがあるんだ……。さっきも言った通り俺には記憶が無い……だから、もしこの森から出れる道を知っているなら教えて欲しいんだが。」
「森から出られないの?!………分かった!、私に着いてきて!。」
「ちょっと姉ちゃん!不味いって!!。この人を村に連れていく気かでしょ!!。人間に村の場所を教えちゃダメだって!!!。」
………姉の方は良くも悪くも単直だ。感情が行動選択に強く反映されている。
………だが弟の方は中々に聰い良うで、村の場所を教える事に躊躇いがるようだ。
(とゆうか村まで連れて行ってくれるのか………。姉の方は本当に純粋なんだな。)
「この人がいなかったらお兄ちゃんの形見も取り返せなかったんだよ!!。絶対悪い人じゃないしこの人困ってるんだよ!!。村長もいつも言ってるじゃん、困ってる人は助けろって。私達が助けて貰ったんだから次は私達が助ける番なの!!。」
しかし、このような僻地では知力より体力の方が生きる場面が多い。
姉ゴブリンはこうして、弟ゴブリンを引きづりながら俺の道案内を勝手でてくれた。