我ですか?ママですか?
「なるほど………つまり、お前は数百年前の戦いで敗れたが……完全に殺しきる力が人間側に無かった為にここに封印されていると。」
(………そう言うことになる………。十分な力は持っていたのだが、それを発揮する手段が無かったのじゃ。)
随分昔に人間と多くの亜人種の連合との間に戦争があったらしい。
こいつは………ティルアはその時の亜人側として戦ったらしいのだが……結果は敗北……今に至る。
しかし、完全に何も出来なかった訳でもなかったらしい。
(………封印されたこの場所、お前が居るその水はこの山のあらゆるものが溶けている。多様な金属成分に植物や動物の死骸………そして大量の魔力、我を封じた勇者達は『命の水』とすら呼んでいた。)
「………つまり、お前自信が何が大事を起こすことは出来なくても……この水から生き物を作り出せたって事だな?……俺みたいに。」
(あぁ……最初は怒りに任せて多様な怪物を生み出していた、人を殺す獣を。しかし、それでは何も変わらなかった…数百年前経つ頃には人を恨む事すら億劫になった。)
……体は女児だが、どうやらティルアは凄まじい年月を生き延びているようだ。
基本的に話の時系列が数十年単位の時点で人外なのはよく分かる。実際、水晶の中の彼女は華奢な体から人には無いコウモリのような羽が腰から生えており……頭部には黒く艶やかな角が2本伸びている。
(……そこで我は知恵のある生物を作ろうと考えた……、雑魚を作るのではなく、数十年の時間を掛けてゆっくりと一体づつ生み出し………我を救えと。)
「それの最後が俺って事か?。」
殺意に任せて、ただ人を襲うバケモノが主を助ける為に策を練れるとは考えられない。
それに気付いたティルアはより長い時間を掛けて知力の有る者を生み出したのだろう。
だが、弱っている彼女からわかる通り………きっとそうやって生き物を生み出し続けるには限界があるのだ…………そうして最後の最後に出来たのが俺………
(いや……お前を生み出すには………『200』年掛かった。)
「俺に見捨てられればいよいよ終わりと………だが先に生み出した奴らがダメだったのなら俺も…………ん?。『200』年?。」
…………気の所為だろうか、他の奴とは桁が違う気がする。
(ああ、200年だ………。おかげで我本体の魔力はもう尽きかけ、我は魔人だ………魔力が尽きれば死んでしまう。だがこの封印がある限り我は新たに魔力を得ることが出来ない。)
「じゃあなんで俺にそんなに…………、いくらその前のやつらがダメだったからって。てゆうかそんなに時間が掛かるものなのか?。」
(最初は…我は『魔獣』とよんでるが、水に落ちた生き物を取り敢えず強化していたのだ。次の知能がある奴らも、そうした魔獣を元に作った。だが『人間』……それも知能だけでなく、他の人間達から信用を得られる『人間味』………本当に大変だった。……なのに………。)
「なのに?。」
(次元の狭間をうろつく魂を見つけ閃いたのだ。『これを混ぜればいいのでは?』と、既にボロボロの魂だったが、記憶が無くとも人間の体に人間の魂が込めれば完璧な我の為の『人間』になると………なのにぃ!!!。)
弱々しく言葉を並べていた声に、唐突に張りが出てくる。
(目覚めた瞬間から……何故そうも反骨精神に溢れているのだ?!?!。記憶が無いのだぞ??産まれたてと差異は無いのだぞ?!?!。赤子を導くように、優しく甘やかし……母親としての尊厳と共に我の救済を刷り込もうと考えていたのに!!!。)
………急に………ワガママを言う子供のようになったな。
勿論言ってることには欠片も子供らしさ等無いのだが、それでも悪意の無いイタズラとゆうか………
「……安らかな死についていた俺を都合よく利用出来ると考えていて転生させたらこのザマってか。」
(そう!!そうなのだっ!!。我は母親なのだぞ?!、我に触れたいだろ?!?!、このふくよかなバストに顔を埋めたいじゃろ?!?!。)
「ふくよかって………お前自分の姿を見た事無いのか?。」
(だ・か・ら!!、何故そう当たり前のように毒を吐くのだ!!!、我だって本当はこんなツルペタ等ではないのだぞ!!、ボインボインなのだぞ?!?!。)
確かに、産まれたての子供は自ずと母親を認知するものだ。
多くの場合は初めて認知した相手。
魂がボロボロだと言っていたが、おそらく死ぬ前の記憶が無い事を言っているのだろう。
記憶がまっさらの状態から着実に刷り込みをする予定だった………と。
「んな事言われてもなぁ………ガキに『ママでちゅよ〜』なんて言われてもなぁ。」
(言ってない!!我は自分の事をママだなんて言ってないもん!!!。)
「本当か?。お前が嘘を付くようなら……俺の評価は当然そうゆう奴ってなるんだが……………」
…………………………
(………い、言った………かもしれん………。)
「言ってねぇよ、はい嘘つき〜。」
(うがぁぁぁあ!!!、ヤダこの子!!!全然可愛くないぃぃっっ!!!。)
あの全身を痛くされるのは脅威だが………、それが、無いならこいつは見た目相応のガキでバカだ。
反応の1つ1つが大きく、ついからかいたくなってしまう。
(わ、……我だって………。凄い子が出来たから………。甘やかしたかった……、我の事を『ママ』と呼ばそうとも思っていのに……なんか目覚めてから状況確認し始めるし…割とすぐ出ていこうとするし………、もう思春期超えちゃってる感じだから『ママ』だよなんて言いにくかったし…………うぅ。)
「それもしかして心の声だったりするか?。呼んで欲しいなら呼んでやっても良いんだぞ?。」
(うわぁぁ!!、念話中だったぁぁぁ!!!!……………もうヤダ、我今すぐ消えそう…………。)
本当に反応が面白いやつだ。
……だが、今こうして接してはいるものの………大昔に人間とやり合って、倒す事が出来なかったからこうして封印されているわけで……つまりこいつは相当危険な存在のはずだ。
「……一応聞くが………、もし解放されたとしてお前は人を襲うか?。解放されたお前は何がしたいんだ?。」
出来る限り何気なく……ただふと思ったから聞いただけとゆう雰囲気を出しつつ唐突に重要な質問を振ってみる。
幼い見た目と精神年齢………これは恐らく素であるとは思うのだが
何かしら嘘をついているかもしれない……。
本当は未だに人を恨み……復讐の機会を伺っているだけかもしれないのだ。
(……だから言ったじゃろ?。争っていた日々は遠の昔、恨みが風化する事は無くとも……恨む体力すら残っとらんよ………。それに、その質問に意味はあるのかの?我の答えで納得のいく決断が出来たのかの?………これから自分がどうすればいいかわかったのかの?。)
「…………なるほどな……、まあ、その通りだ。決定権は俺にあるみたいだが……ここで断って唯一の情報源であるお前を手放す訳にはいかないな。」
(……情報源とは我の事か?………もし、我に協力を得たいならちゃんと呼べ。)
「ちゃんとってなんだよ。」
(ぐぬぬ……まだ分からんのか!、『かあさん』でも『母上』でも…………ま、ママでも……色々あるじゃろが………。)
結局ママって呼んで欲しいのかよ。