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今日、彼は転校する

作者: あきゃふ

 明後日、クラスメイトが転校する。

 中学二年生の、終わりに。クラスメイトの男が転校する。

 そう書いたら、なんだ、人生に二、三度はあるようなイベントではないかと思う方も多いだろう。そんなものを題材にして、何が楽しいのか、と。

 初めに言っておく。これは納得のいく話の展開もせず、納得のいく話の落ちもつけない話だ。いや、そもそも、話などではないのかもしれない。これは、転校してしまう級友を、その別れを惜しんで心内を闇雲に見苦しく、書き表したものだ。

 この話が、誰にも読まれなくてもいい。

 この話は、誰にも読まれない方がいい。


 彼と出会ったのは、中学校に上がってからだった。だから、実際に彼と過ごした月日はたったの二年、という事になる。彼(仮にイニシャルA・Sとする)の、学校内でのポジションを簡潔に言うと、学年一位の秀才だった。それは、学年一意の決定事項だった。

 秀才。

 恥ずかしながら進学校を名乗っている、自称進学校の我が学校にいてもいいのかと疑うほどの、秀才だった。自分が何とか在籍している自称進学校の特待生17人の中で、その中でトップだった。校外模試を受ければ、全国10位以内には入る。噂によると、某有名進学校に受験して受かったのだが、家庭の都合でそちらには進学できなかったとか。そのくせ、性格は良くて、自分達と一緒にディープなトークに身を投じていたりする。

 正直、反則の人材だ。こんな奴がいてもいいのか。毎日同じ学び舎で勉強していたのが、今更になって恐ろしく思えてきた。

 そんなことは置いておいて。

 自分は、彼が転校する一週間前にそれを知った。クラス内の情報弱者である自分は、クラスメイトの噂話をうっかり耳にして、知ったのだ。

 皆曰く、遅い人でも一か月前には知っていたとのこと。噂に対する無頓着さにはほとほと呆れるが、今はそんなことを言っている状況ではなかった。

 転校する。

 家に帰って床に就いて、そしてよくよく考えて、恐ろしくなった。なんとなく、世界からリンゴが消えるみたいだと思った。何でそう思ったかはわからない。きっと、今までそこに当たり前の様にあるものが消える怖さが、そんなふうに表現されたのだろうと思う。

 怖い。怖い怖い怖い。

 噂によると、中高一貫である我が学校を抜けて、高校入試をし、このあたりで一番レベルが高いと言われている公立高校へ入学させたい親の計画だ、とのこと。


 さてここで、自分の癖、というか性癖を一つ暴露させよう。いや何、そんなに特別な性癖でもあるまい。

 自分は、今が楽しい。今生きている今が楽しい。ずっとずっと、今でいたい。そう思う気持ちが人一倍強いように思える。大人になんかなりたくない、ずっと子供でいたい。この楽しい仲間たちと一緒に延々と永遠にループを繰りかえして中学生でいたい。今という時間がずっと続いてくれればいいのに。もしもそうならないのなら、皆殺して自分の理想とする空間に閉じ込めて、皆と暮らしたい。

 皆は、自分の物。そうならないんだったら、殺してでも、誰にも手に入れさせたくない。

 つまり簡単にいうと、独占欲が強いのだ。

 自分の目の前からいなくなるのなら、皆の目の前からもいなくなっちゃえ。

 えいやっ。

 そんなふうに、したいのだ。


 A・Sの転校を聞いたとき、私はそう思った。えいやっ、と言って、彼を殺したい。いっそ、彼とクラスメイトを皆殺したい。皆殺して、自分も死にたい。

 そう思った。

 殺すのなら、毎日朝と放課後にある黙想の時間に殺すのが最適かな。殺すのは家にある包丁で。刺すときは肋骨が邪魔にならないように刃は横向きにして……。

 冷静になって考えると、結構恐ろしいことを企てているが実際、自分は本気で今もそうできないかと思っている。

 いなくならないで。

 いなくならないために、いなくなって。

 なんて矛盾した願いだろう、と。我ながら呆れる。


 でも、そんなことをしたら、自分は自殺をすればいいのだが、家族が批判対象になりかねない。それはそれで嫌だ。家族も、自分の物。自分以外に傷つけさせない。

 なので、自分はきっと両手を振って、彼との別れを惜しみながらも、きっとお別れをするだろう。多分きっと泣きながら。多分きっと怒りながら。多分きっと笑いながら。多分きっと、彼といた日々を懐かしみながら。


 ありがとう。A・S。お前と過ごした日々は楽しかった。

 ありがとう。本当にありがとう。

 本当は、お前を殺してでも引き留めたいけど、自分が死んででも引き留めたいけど。

 ありがとう。

 本当に、ありがとう。

 楽しい思い出を、ありがとう。

 自分は、お前と過ごした学校生活が、死ぬ程楽しかった。

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