夜道
薄暗がりの街灯が点いたり消えたりしている。
心もとない夜道を一人の女性が歩いていた。
コツコツコツときっとヒールの長い靴を履いている音だろう。
アスファルトに当たり反響する音が、遠くまで伸びていっている。
明滅する街灯に一瞬映りそして消えていく。
足音だけがやけにリズミカルで、早歩きのようで、そうでもないような、自然なリズムだった。
次に意識して見れた箇所は、背中の中程まであるだろう綺麗な黒髪だった。
点滅を繰り返さない街灯の下を通ったときに、まず目に入り、そして強く意識させられた。
そうだ、香りだ。匂い。
感じるはずのない距離で確かに彼女の匂いを感じたのだ。強く、とても強く。
コツコツコツと足音は遠ざかっていく。
反響する音だけが自分の傍を歩いているようで、私もその足音に合わせて歩いた。
そうしてみれば自然と彼女と一緒に歩いているようで、口角が上がり、嬉しさを感じた。
ああ、彼女が角を曲がってしまう。
この先は街だ。大きな通りに出てしまう。
それはいけない。それではいけない。
彼女ともっと一緒に歩きたいのだ。
歩調を合わせ、こうして一緒に過ごせている時間を失うのはとても悲しい。
ふと、わたしは気が付いた。
手が。
わたしの手は彼女に届くじゃないか。
声なく笑った。喜び溢れるとはこのことだ。
合わせていた歩調が少しだけずれていき、大きくずれて重ならなくなる。
けれど今だけだ。
目を見開き、こちらを振り向いた彼女の顔は驚きに染まっている。
それも今だけだ。
わたしたちは一つになる。なれるのだ。
それは喜びであり悦びだ。
わたしたちはこれからずっとひとつになるのだから