鳥を助けたら恩を仇で返された。
俺、相模 新は誇り高き自宅警備員。俗に言う無職だ。普段俺は親からの仕送りで生活している。
月の初めに金が自分の銀行口座に振り込まれるので
それを使って食材や生活必需品を買って
生活している。
月の初めにしか外に出ないために
限界まで買い込み、ずっと家の中にいるとつまらない
ので娯楽ゲームなども買って家の外に出ない備えを盤石にする。そして今月もそのルーティンワークを
こなして、生活していた。
ところが2月の初め。
買い物の行きにふと公園を見てみると
網にかかった小さな鳥を見つけた。
…え?今時、網にかかった鳥とかいるの?
いやでも現に今いるし…
などと考えながらそれを見ていると
ふと自分の良心が痛むのを感じた。
何事かと思い、鳥を見てみると
なんと潤んだ瞳で俺を見ているではないか。
網から離してあげなくては、そう思いかけた
俺は頭を振ってその思考を追い出した。
どのみち俺が網から離したところでどうせ死んでしまう。だったら情を持たずそのまま通り過ぎたほうがいい。俺は誇り高き自宅警備員。鳥風情の誘惑に負けることはしない。そう考え帰ろうとしたその時、
またあの鳥が潤んだ瞳で俺を見つめてきた。
俺の心は白旗を揚げた。
誇り高き警備員は優しさも持ち合わせている。
ならば鳥を助けないわけにはいかないだろう。
そんな言い訳を脳内で反復させながら
その時ポケットに入れていた十得ナイフを使って
網を切り鳥を助ける。
悩みの種がなくなってスッキリした俺はそのまま家に
帰って気がついた。
「食材買うの忘れてた…」
その後またスーパーまで行って買い物をして
家に戻ってくると家の前に女の人が立っていた。
可愛いというより美しい、そんな言葉が
似合いそうな人だ。
「あのー…どちら様で?」
そう俺が聞くとその女の人はパッと花が咲いた
ような笑みを浮かべ、こう告げた。
「あっ!おかえりなさい!」
「いやだからどちら様で?」
「分からないんですか?私ですよ!私!
さっき助けてもらった鳥ですよ!」
「えぇ?さっきの鳥?」
「はい。」
そういって彼女はさっき助けた鳥の姿へと
姿を変化させた。
普通に生きていたら出会えない非日常を見て
俺はこの人はさっきの鳥だと考えた。
そして俺は彼女の名前が気になり、
こう聞いた。
「貴女って何の鳥なんですか?」
彼女は答えた。
「私は…鶴です!」
それを聞いて俺はああ、これは鶴の恩返し
のようなものなのだなと考えていた。
「そこで、恩を返すために家の家事をやろうと思うの
ですがどうでしょうか?」
「いいよ。家の中も汚れているし、
こっちこそ頼んでいい?」
そういうと彼女はさっき俺に見せた笑顔を見せて、
「はい!よろしくお願いします!」
と言った。
そこから先は早かった。
彼女と一緒に家で過ごして、一緒にゲームをして
掃除と料理をしてもらった。
たまには問題も起きた。
でもそれを二人で力を合わせて解決するたび
俺は彼女に惹かれていった。
そうして彼女が家に来て1年経った時、
「結婚してくれ!」
俺はそう言った。一世一代の告白だった。
「で、でも私は鳥ですよ?」
「君が何であろうと関係ない!
俺は君が好きなんだ!」
そんな俺に彼女は涙をポロポロと流して
「…はい」
とだけ言った。
そうして結婚(?)してから何日か過ぎたある日、
食材の買い出しに行って帰ってくると、
家から俺の溜め込んでいたへそくりと
結婚指輪が消えていた。
…おい待て。今とても微妙な考えが頭をよぎった。
多分聞く人が聞けば地球が凍ったなどと言うこと
間違いなしな考えだ。下手したら
トマトが飛んでくるレベル。
それでは心を込めて言わせていただきます。
すぅぅ…
「お前鶴じゃなくてサギじゃねーか!」
ちなみに取られたのは数万円ほどのへそくりと
結婚指輪だけ。
それも5万円程のもの。
口座の中のお金が取られていないだけマシだ。
うん、まぁ、結末としては良かったんじゃないかな。
たいした傷もないし。
これで口座の中のお金もなく家財道具とかも
全部持ってかれてたらやばかったかもしれないが
これぐらいなら大丈夫だ。
ただひとつだけ学んだことを書いて、
この夏の不思議な出来事を終わりにしよう。
現代に あると思うな 恩返し。
終わり