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第一章 2話 「絶望の始まり」

 ドラゴンと王様が消えた直後、空が暗くなる。


 闇に巨大なピエロの顔が映し出された。


 『やあ! プレイヤーのみんなー、こんにちはー』


 満面の笑みをピエロは浮かべて話し始めた。


 まるで幼い子供に相手にするような口調。

 これもイベントの続きなのだろうか。周囲のプレイヤーたちがざわつく。


 『おやぁ? 返事がないぞ? じゃあ、もう一回、こーんにーちわー』

 「「「こんにちわー!!」」」


 ノリがいいプレイヤーたちが返事をする。


 『うん! いいね!いいねー!』


 返事が来たことで、ピエロは嬉しそうだ。


 『さて、今日はみんなに大事なお話があってきました。 最初に、このゲームは僕が乗っ取りました』


 乗っ取っただと――――?

 イベントの続きではないのか。

 多くのプレイヤーたちが困惑した表情をする。


 『平たく言えば現在、この<Savior Lord>のゲームマスターは僕だということ。 僕が自由にゲームシステムを変えられるわけだ』


 プレイヤーたちから怒号が上がる。

 

 「ふざけんな!!!!ゲームをめちゃくちゃにするつもりか!!!」


 ナヤギも声を荒げて叫ぶ。


 『まあまあ、落ち着いて。 話は最後までしっかり聞こうね。 次に、みんなにはこれから僕が主催のゲームに参加してもらう』


 そんなものに参加するわけないだろ!!そうだ!一旦、ログアウトすれば――――!!

 メニュー画面を出そうと指で空をなぞるが、何も出てこない。

 もう1度動作を繰り返すが結果は同じ。


 『ああ、話が終わるまでメニュー画面は開くことができないようにしているよ』


 その言葉にナヤギは顔を上げる。

 周囲には彼と同じようにメニュー画面を出そうと空を指でなぞっている人達がいた。


 『ルールを説明するから、よく聞いてね。 今から始まるゲームは、基本的には<Savior Lord>と変わらない。 各地に居るボスたちを倒して、ラスボスの魔王を倒したらゲームクリア。 これは、みんな分かっていることだよね。 ここからは、違いについて話そう。 最も大きな違いはログアウトボタンによるログアウトが出来ないことだ』


 ログアウトが出来ないだと!?じゃあ、どうやって現実世界に戻ればいい――――?


 『だけど、安心してほしい。 ログアウトが出来ないわけじゃないから。ログアウトする方法はゲームをクリアすることか、自分のHPをゼロにすることだ――――ただし、後者は現実世界からもログアウトすることになるけどね。 HPがゼロになった瞬間、もしくは外部の人間がヘッドギアを外そうとした時、装着しているヘッドギア内に仕込まれた小型爆弾が爆発して君たちは死ぬ』


 喧騒が静まり、この空間は静寂に包まれた。

 面白半分に騒いでいた連中も言葉が出ないようだ。

 当然だ。あまりにも非現実的。

 ゲームの敗者が死――――空想の世界でしか聞いたことが無い。


 嘘に決まっている。

 第一、何万台とあるヘッドギア内に爆弾を仕込むことなんてできるわけがない。


 『どうやって爆弾を仕込んだかは秘密だけど本当のことだよ。 この動画を見てほしい』


 ピエロの顔が消え、四角いスクリーンが現れ動画が流れ始めた。


 どうやら、現在放送されているニュース番組。

<Savior Lord>をプレイしていた人のヘッドギアを外したら、ヘッドギアが爆発して人が亡くなったという内容だ。

 ニュースを見て、プレイヤーの何人かが膝から崩れ落ちる。ピエロの言っていることが本当のことなのだと、認識できたのだろう。


 ナヤギも体が震え始める。

 嘘だと言って欲しかった。普通のRPGでさえ、1度も死なずにクリアすることなんて不可能に近い。


 5分ほどニュースが流れた後、スクリーンは消えて再びピエロの顔が現れた。


『僕の言っていることが本当だと、これで分かってくれたかな? この仮想空間での死は現実世界の死につながる。 そして、外部からの助けも期待できない。 君たちがこのゲームを脱出するためには、ゲームクリアか、現実での死をもってログアウトする必要がある。・・・そして、もう1つ方法がある。――――それは、人狼の全滅』


 人狼――――?

 モンスターの固有名だろうか。説明書にも、某動画サイトに上げられたβテスターたちの攻略動画にも、人狼なんて言葉は出てこなかった。


『ここも<Savior Lord>とは大きく異なる点だよ。 君たち5万人のプレイヤーの中に、10人だけ“人狼プレイヤー”という特別なプレイヤーがいる。 一般プレイヤーと人狼の違いは多々あるが、大きな違いの一つが人狼は都市や村などの安全区内でのPKが可能だということだ』


 PK。プレイヤーが他のプレイヤーを攻撃して、HPをゼロにする――――つまり、殺す行為である。

 今、この世界においてPKをすることは現実世界で殺人をすることに等しい。そんなPKを、安全区内で行うことのできるプレイヤーが存在するというわけである。

 周囲のプレイヤーたちがざわつく。


 『この人狼プレイヤー全員が死亡した時、残りのプレイヤーは現実世界に帰ることができる。 つまり、今日にでも君たちはこの世界から解放される可能性があるということだ。 もし人狼を安全区内で殺そうと思ったなら、その処刑台を使うと良いよ。 人狼を処刑した人達には特別なスキルが獲得できるから』


 ピエロが指を鳴らす。

 突如、広場の中央に高さ10メートル程の十字架が現れた。


 プレイヤー同士で殺し合いをさせるつもりか。

 レアスキル狙いで、無差別に処刑を行うプレイヤーが出てくるかもしれない。


 『話を整理しようか。 ゲーム内容は、<Savior Lord>とほぼ変わらない。 ただし、ログアウトするためにはゲームをクリアするか、君たちの中に10名しかいない人狼を全滅させる、もしくはこの世界及び現実で死ぬことだ。 理解できたかな? あと、他人のステータス画面を覗き見ることと、転移アイテムの使用ができなくなったから、よく覚えておいてね』


 転移アイテムが使えない。

 緊急避難ができないということだ。つまり、死亡する確率が高くなる。


 『以上で、僕の話は終わりだ。 みんなが懸命にこの世界を生きてくれることを、心から願っているよ。――――ああ、そうだ。 自分が人狼かどうかはステータス画面のプレイヤー名を確認すればすぐに分かるよ。 人狼はプレイヤー名の横にオオカミのマークが入っているから。 それでは、さようなら』


 とびきりの笑顔を浮かべ、ピエロは消えていった。


 残されたプレイヤーたちの反応は様々だった。

 悲鳴を上げる者、言葉を失い立ち尽くす者、怒りの声を上げる者、広場から飛び出していく者。


 ナヤギは状況がはっきりと理解できていなかった。

 ついさっきまで、いつも通りの日常だったはずだ。

 休みの日だから昼に起きて、新作のゲームをプレイする。それだけなのに、なんで死ぬかもしれないゲームに参加させられているのか。


 とりあえず、力のない指で空をなぞりステータス画面を表示する――――そこにはさらなる絶望が待っていた。


 

 自分のプレイヤー名の横に、オオカミの顔が描かれた丸いマークがあった。




 ――――――――――――――――――


 ゲーム開始・・・人狼 残り10名



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