プロローグ 「旅立ち」
「――――ふわぁ~、今何時だ?」
自室のベッドで目を覚ました少年は、寝転がったまま充電してあるスマホに手を伸ばす。
短くもなく長くもない黒髪、低くもなく高くもない身長。やや細身で色白ではあるが、不健康そうには見えない。
何の特徴もない平凡という言葉が良く似合う少年だ。
柳 蓮也。
この平凡な少年の名だ。
歳は17、定時制普通高等学校に通う高校2年生。
成績は、優秀でもなければ、落ちこぼれでもない。仲の良い友人が数人いて、クラスの中では目立つ存在でもないし、浮いている存在でもない。つまり、中身も平凡というわけだ。
ベッドから体を若干乗り出す事で、柳はスマホを手にすることができた。
眠そうな目をしながら、スマホの電源ボタンを押す。
スマホに表示された時刻は11時30分。一般的には昼と言っていい時間だろう。
「11時半!?ヤバっ!!!」
一瞬で意識が覚醒。
ベッドから飛び起きる。
学校に遅刻する、というわけはない。
今日は土曜日。
多くの人々にとって休日だ。当然、学校も休みである。
では、なぜ柳は焦っているのか。
それは今日がVRMMO『Savior Lord』のサービス開始初日で、昼12時からゲーム内でサービス開始記念のイベントが行われるからだ。
そのイベントに参加するために、昨日はいつもより早く寝たのだが、このざまである。
「ソフトが見つからねえ!」
<Savior Lord>のソフトを机の上に置いておいたはずなのだが見つからない。
机の上の物をすべてひっくり返して、引き出しの中をあさる。
「まじでどこだ・・・ん?」
机の横に無造作に積まれた雑誌類。
間に薄いプラスチックの箱が挟まれていた。
そのプラスチックの箱を引っ張りだす。
箱には、剣を持った兵士とドラゴンが描かれていた。
見覚えのあるパッケージ。 <Savior Lord>のソフトだ。
「しゃああああ!!!あったぁぁぁぁぁ!!」
喜びのあまり思わず柳は叫んだ。
「うるさいわよ!!!」
「ひっ!!」
隣の部屋から思い切り壁を叩く音とともに苦情が来た。
3つ上の大学生の姉である。
小さいころから泣かされることがよくあった。今でも若干怖い。
だが、仲はそれなりに良い方だ。
勉強とかはよく教えてもらっている。
「やべえ・・・静かにしないとな」
姉は怒らせるとマジで怖い。
クローゼットを開き、ヘッドギア型のハードを取り出す。
ハードにコインほどの大きさのゲームソフトを挿入。
頭にかぶりベッドに寝転がる。
そのまま電源を入れる。視界がだんだんと黒くなり、やがて闇に染まった。
『――――<Savior Lord>を開始します』
この数時間後、柳は思った。
ゲームソフトが見つからなければ良かったと――――




