間話・ゴースト
ゴーストの過去とゴーストから見た前話です。
ワシの名は『アラン=モーリス』。モーリス伯爵家の婿養子じゃった。
生まれはしがない農民の三男で、元はアラン。唯のアランじゃった。
何故農民のワシがお貴族様の婿養子になれてしまったのかと言えば、
ワシの妻、『シェリー=S・モーリス』がいたからじゃろう。
ワシはどこにでもいる農民の子供として12歳まで育った。
それまでは毎日畑仕事をして子供なりに家に貢献しようと汗水垂らして働いた。
日照りが続き、不作になった年は家族の為に森へ行き食べられる物を探した。
妹が腹を空かしたと言えば自分の分を渡し、森へ向かうと草花を食べて飢えを凌いだ。
とにかく家族の為、それだけを思って生きていた。
そうして迎えた12歳の誕生日。
ワシは家から追い出された。
口減らしだったんじゃろう。確かにその年は不作じゃったし。
今なら分かる。奴隷として売られなかった事が、親からのなけなしの愛情じゃったと。
働き盛りの12歳の男子など、買い手数多の売れ筋商品。
事実、ワシの幼馴染の多くはその年、奴隷商に連れていかれた。
奴隷として売られていたら、使い潰されてあっさりと死んでいたじゃろう。
もしすれば良い主人に買われ、人並みの生活を送っていた可能性もあるじゃろうが。
そんなのは夢物語のようなもんじゃろう。
とにかく子供じゃった。
ワシを捨てた親を憎んだ。
愛情に気づかぬまま・・・
ともあれワシは生きる為に行動した。
村から離れ、人の多い街まで流れ着き、そしてスラムに住み着いた。
幼い頃から森に入っては食べ物を探していたのが功を制した。
自分一人の糧を街近くの森で得るのにそこまで苦労はせんかった。
悲惨なのは他のスラムの子供達じゃろう。
腹を空かせては物を盗み、見つかればその場で殺される事もあった。
最初のうちは薬草や食材を採取して金銭を得た。
森のどこに何が生えているかは誰よりも熟知しとったし。
稼いだ金を貯めて武具を買ってからは、危険じゃが金払いの良い魔物を狩った。
スラムの生活で荒事には慣れておったからの。
気付けば一端に稼げるようになっておった。
ワシの名もそれなりに知られるようになっとった。
年齢は18を過ぎていた。
森の奥深くに生える薬草を取りに行っている最中にドジを踏んで、魔物の群れに包囲されてしもうた。
数は力じゃ。ワシ一人ではどうしようもない。
半ば諦めかけた時、救いの手が差し伸べられた。
男1、女3のパーティーが魔物の後方から攻撃を開始した。
それに合わせて立ち回り、どうにか命を繋いだ。
助けて貰った礼を言うと、男からパーティーに入らないかと誘われた。
聞けば丁度一人男がパーティーから抜けたらしい。
ワシの噂も聞いていたらしく、実力もあると確認出来たから是非にと。
恩もあったし、統率の取れた動きをしていたのも確認済み。
このパーティーなら安全に稼げると判断し、加入した。
後に王国騎士団長まで昇り詰める男『ダリル=ヘルケイン』との出会いじゃった。
妻のシェリーとはこの時出会った。パーティーの一人じゃった。
妻は男爵家の三女。政略結婚の駒になるのが嫌で14歳の時に家出したらしい。
聡明で魔法も使えた妻は食い扶持を稼ぐのも困らなかった。
目端の利くダリルに誘われて加入したそうじゃ。
それから4年が経ち22になった。
ワシらのパーティーは凄腕として周知されるようになった。
ワシは妻と恋仲になっとった。
切っ掛けは色々とあったと思うが詳しくは覚えておらん。
そんな時にワシとダリル宛に軍から仕官の誘いが来た。
パーティーの今後に関わる事じゃから皆で話し合った。
結果ワシとダリルは軍へ仕官する事に決めた。
いつまでも先の安定しない生活は続けられん。
妻も身籠っていたらしく丁度良かった。
他のパーティーメンバーでドワーフの『ヴィーネ』はそろそろ実家に戻ると言って街を出た。
もう一人のメンバーでエルフの『シルフィール』は旅を続けると言い次の街へ向かった。
2年が経ち24になった。
子供も無事に生まれ軍での生活も順調じゃった。
そこへ妻の実家から知らせが届いた。
家を継いだ兄夫妻が魔物の襲撃で亡くなり、後継者がいないので戻って来いと。
妻の姉二人は既に他の家に嫁いでおったので妻しかおらんかった。
妻と話し合い、ワシは軍を退役し、妻の実家へと三人で向かった。
義父は貴族という言葉を形にしたかのようじゃった。
どこまでも血に拘る人じゃった。
農民の血など認めんとワシと妻の間を引き裂こうとしおった。
妻がそれに反発し、ならば家には戻らないと言うと渋々と認めた。
既に息子も生まれておったし、妻も21歳になっとった。
貴族は20以下で純潔の若い娘を求める輩が多い。
渋々と認めた理由は、子持ちの貧乏男爵を相手にする者などおらんと考えたからじゃろう。
それから色々とあった。
国と国の戦が何度も起きた。
その度に活躍しては領地を拝領し、爵位も上がった。
ワシには腕っぷししか取り柄が無かったからそれはそれで都合がよかった。
内政は妻に丸投げじゃった。
50になった時、ワシを辺境伯にしてはどうかと国王から案が出た。
戦での覚えがよかったのじゃろう。何かと目に掛けてくれていた。
しかし、それをよく思わない者も多かった。
既に爵位は2階級も上がっておったし、周りからの嫉妬は酷かった。
ならば条件を達成出来れば辺境伯にしてはどうかという事になった。
ワシは1小隊のみで蘇り討伐を命じられた。
出世を妬む者達に完全に嵌められた。
討伐へ向かった先で、ワシの人生は終わった。
終わったと思ったんじゃが、何故かワシはゴーストとして存在しとった。
よほど未練があったのじゃろう。
家族の姿を見に戻ろうと思ったが、剣の周りからは移動できんかった。
それから何年経ったのかはわからんが、久方振りに人の姿を見た。
頭の先から下まで真っ黒な20前後の人族じゃ。
古戦場の噂でも聞いてやってきたのじゃろう。
今までも何人か見たが、蘇りに全てやられておった。
剣の前まで辿り着いた者は初めてじゃ。よほど運がよかったのじゃろう。
じゃが奴に見つかればこやつも無事では済むまい。
聴こえないとは思うが親切心からつい声を掛けてしもうた。
するとどうした事か、訝し気に周囲を確認し始めおった。
もしや、ワシの声が聞こえてるのやもしれん。
ワシは言葉を続ける。
驚いた事に、今度はワシと視線が合いおった。
こやつ、ワシが見えておる。
しかし、そのまま何か考えているのか、まったく動かなりおった。
痺れを切らし、また声を掛ける。
返ってきた言葉はまったく理解できんかったが。
聞いた事が無い言葉じゃ。こやつ、この大陸の者ではなさそうじゃ。
無理だとは思ったが魔法王国語が話せるかと聞いたら、聞き慣れた言葉が返ってくる。
喋れるではないか。そのまま話を続けるとどうやら何も知らず迷い込んだようじゃ。
それにしても魔法使いも見た事が無いとはどんな辺境から来たのやら。
そこで視界に奴が映る。蘇りが来てしもうた。
無駄だと思いながらも逃げるよう忠告する。
しかし、こやつは逃げる所か戦うつもりのようじゃ。
何も知らんから奴の恐ろしさが理解出来んのじゃろう。
生存は絶望的。ワシは大人しく事の顛末を見守る事にした。
蘇りは物凄い速さで若造に接近すると上空から拳を振り下ろす。
これで終わりと思ったが、若造はあっさりとそれを回避した。
普通ではありえないほどの距離を一瞬で後退する。
こやつ、武を修めた者しか使えぬ【闘気】使いじゃ。
ワシは30過ぎにようやく使えるようになったというに、この若さで・・・
しかし若造は武器を持っておらん。
避ける事が出来ても倒す事はできんじゃろう。
蘇りは体を傾けると疾風のように走り出した。
それに対して若造は、蘇りの頭上を蝶のように、ひらりとすり抜ける。
まるで熟練の武人が演舞をしているようじゃ。
そのまま走り抜けた蘇りは何故か頭を落とし、やがて倒れた。
ワシでさえ死闘の末に腕を切り飛ばすのが限界じゃった。
それを今の一瞬で首を落とすとは。今も武器すら持っていない。
何が起きたのか理解できん。
呆然と見ていると若造が話しかけてきた。
聞けば魔術師?という使い手らしい。
自分の事を大分下げて言っとるが、随分と謙虚のようじゃ。
謙虚なのはよいが、人によっては嫌味にしか聞こえんぞ?
おそらく、こやつの国では魔法の極意に至った者をそう呼ぶのだろう。
しかし魔法を極めた弊害か、少々アレのようじゃ。
そうこう話していると、倒した筈の蘇りが動き出した。
若造はそれを見ると魔法の詠唱を始める。
淡い緑玉の光を纏った魔法陣が7つ。出現した。
ワシが戦場で見た宮廷魔導士でさえ魔法陣4つが最高じゃった。
流石魔法を極めし者じゃと感心しておると、光に包まれた。
空高く、100メルトは軽く火柱が上がっとる。
周りの草木はまるで嵐の只中かと思うほど風に煽られとった。
やがてそれも収まると、蘇りの姿はどこにも無かった。
魔石も確認できん事から、恐ろしい熱量を持った魔法だったのじゃろう。
ふと思い出した事がある。
ここから更に南へ向かった先の禁忌の森に住まうドラゴンの話を。
思えばこの若造は南から現れた。
もしやドラゴンが人に化けてるのではなかろうか?
若造はどこか遠くを見ながら動かない。
恐る恐る話しかけると、若造はばっさりと切り捨てた後に街の場所を聞いてきた。
街の大まかな場所を答えると、そこへ向かうらしい。
ならばと思い切って頼みを伝える。
ここは禁忌の森に近い危険地帯。
次にここへ人がいつ来るかもわからん。ワシの姿が見えるとも限らん。
ワシは家族の姿を一目見たい・・・
妻と息子達の事を想っていると返事が無い事に気づいた。
若造の表情は苦虫を噛み潰したかのようになっとる。
この流れは断られそうじゃ。
ワシは焦って対価を提示した。
しばらく考えに耽っていたが、子供が悪戯を成功させた時のように笑うと了承した。
シェリー、どうやらワシはお主の元へ帰れそうじゃ。
もっと短く収まると思ったら大分長くなった・・・




