運命の出会い
ここ数年寝起きが悪かったのだが、今日の目覚めはとても爽快で、二度寝したくなるような眠気もなくスッキリと起きる事ができた。早めに寝たからだろうか?研究していると徹夜はざらだし、不規則な生活習慣も祟っていたのだろう。砂漠では移動時間を増やす為に睡眠時間を削っていたし。
やはり睡眠は大切だ。身に染みて実感した。
洞から出て軽く体を解す。固い洞の床で寝たせいか所々強張っていのが分かった。柔らかい布団が恋しくなるが無いものねだりしても意味が無い。早めに街を見つけなといけないな。この世界に人がいるかもわからないが。そこまで悲観的になっても得る物は何もないので、これからの探索に期待していこう。
時刻はおよそ午前6時前後と思われる。東の空は綺麗な朝焼けに染まっており、群青を押し上げるかのようなオレンジのグラデーションが幻想的な光景を演出している。後十分もしたら日の出が拝めるだろう。
空は澄み切っていて雲一つない。今日はいい天気になりそうだ。
それにしても、マナの密度が濃すぎる。
元の世界の大砂漠でマナの密度が1としたら、ここは20~30倍くらい濃い。マナ溜りという事を考慮しても、比べようにない程多いだろう。マナ溜りでなくても元の世界より10倍は多いと思われる。
そんな事を考えながら焚火を熾し、リュックサックから食材と調理器具を取り出し全て同じサイズに刻んだ後、水と一緒に鍋にぶち込み適当に煮る。塩と胡椒で味を調えれば誰でも作れる適当スープの出来上がりである。温かいものを食べれば体の底から温まり消化が進めば血圧が上がり脳も動き出す。朝食はとても大事な要因だ。
とはいっても人間中々その通りに実行出来ない事も多い・・・全て研究が悪い。俺は悪くない。うん。
これを機に規則正しい生活というのも悪くないかもしれない。
目標の概要は理解したし、後は実証と論文の作成だ。ゆっくりと進めればいいだろう。まあ、元の世界に戻れないとそれも無意味だが。
そうこうしているうちに朝日は登り、鳥の囀りが聞こえてくる。森は密かに騒めきを増し、一日の始まりを予感させた。
使った器具を洗い焚火を消して土を被し、出発の準備が整った。とりあえず周りに何があるのかもわからないので、北を目指して進んでいく予定だ。
昨日の夜に星を観測してみたが、俺の知っている夜空とまったく同じだった。大砂漠で夜に座標の測定を行っていたが、それらと照らし合わせて見るとどうやらここは大砂漠の中心らしい。辺りは濃い緑に囲まれ元の世界とは似ても似つかない光景だが。
全ての情報を元に考察すると、当て嵌まる言葉が1つあった。
【並行世界】
並行宇宙、並行時空とも言われ、元の世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界という概念である。
狭間の世界で見た大樹には膨大な量の葉が生い茂っていた。葉の一つ一つが世界とお人好しは言っていたので、昨日の時点で予想はできていたが、元の葉ではなく違う葉に運ばれてしまったのは確実だろう。
この世界と元の世界、どちらが大元でどちらが分岐した世界かは分からないが。
と、思わず思考に耽ってしまっていたがそろそろ出発する事にしよう。
この世界はどのような表情を見せてくれるのだろうか?不安もあるが、それと同じくらいに期待もある。
大樹の枝から出発して5日が経過した。周囲は相変わらずの森林地帯で道も無く、普通なら数メートル進むのも困難だろう。だが魔術が使えるなら話は別だ。【風の刃】で草木を切り裂き道を作りながら進めばいいのだ。造作もない事である。
途中途中で魔術の検証をしながら進んできたのだが、狭間の世界に行く前と行った後で、劇的な変化があったのだ。
普通の魔術師は魔術を使う時に詠唱する。詠唱する事によって術式を構築し、マナの指向性を後押しして威力を上昇させる。これだけだとマナがあれば魔術使い放題では?と思うだろうが、マナの指向性を促す為に必要不可欠なのがオドである。オドを呼水として使い、マナに指向性を促し、合言葉を以って現象を発現させる。これが魔術師である。
術の発現規模を拡大させようとするとそれに比例してオドの消費量も増えるので、オドの保有量が少ない魔術師は小規模の魔術しか使えない。マナの密度が濃い場所だと促されるマナの量が勝手に増えるので発現規模と効果時間が伸びたりする。
一方高位魔術師と呼ばれる極少数の魔術師は詠唱をしない。脳内で術式を組むからだ。限界はあるけど。
後押しが無くなる分威力は下がるが、両者の間には比べようもない程の圧倒的な展開速度の差が出る。
いくら詠唱によって威力が上がるとしても、先に攻撃されてはどうしようもない。
ならばオドをある程度保持し、詠唱さえ出来れば魔術師になれるのかと言えばそうではない。魔術理論を理解していないと詠唱が出来ても魔術は発現しないのだ。
例に例えるなら、子供に卵を買いにいかせても卵を知らなければ買ってはこれない。こんな感じだろう。
魔術の発現に必要な、炎は何故燃えるのか?水とは何なのか?そういった概念を理論的に纏めたのが魔術理論である。
どんな魔術師でも術の発現の為に合言葉は必須である。しかし、狭間の世界から戻ったら合言葉が無くても術が発現するようになっていた。多分大樹の加護の効果だろう。
合言葉によって術式とマナを組み合わせ発現させるのが魔術だ。マナの扱いが上手くなる事によって合言葉すら省略出来るようになったと結論付けた。
証拠が残らない無いのでどこでも暗殺者になれそうである。俺と同じ瞳を持つ相手がいたらマナの流れでばれると思うが。
オドの保有量も空に向かって風の魔術を発現させる事によって調べてはみたが、おかしかった。いくら魔術を行使しても減ってる気がしない。風の大規模魔術をそれなりに行使しても減った気がしなかった。底が抜けてるとしか思えない。オドの保有量が多すぎるのか、それとも回復速度が速すぎるのかわからないが。多分両方のような気がしている。流石半神と言うべきか・・・
以上がここ5日で検証した結果だ。歩く生体兵器だな。
検証結果を考察しながら進んでいると不意に視界が開けた。森林地帯をついに超えたようだ。
辺りは膝くらいまでの草が生い茂り、所々に骨や風化した武具が転がっている。見た感じ鎧は全て同じ作りで、同じ紋章が刻まれている。武器にも同じ紋章が刻まれており、どこかの軍隊がここで壊滅したのではないだろうか?つまりここは戦場跡という事だろう。
軍隊があるという事はこの世界に人が暮らしているという事だ。ならばどこかに街があるだろう。5日目にしてそれなりの収穫に笑みが浮かぶ。これなら食糧も街まで持つかもしれない。希望的観測だが。
しかし、この戦場跡を見て一つ疑問が浮かんだ。武器や鎧の紋章が1種類しかないのだ。人同士の戦ならどちらも無傷で終わる事はないだろう。片方が圧倒的火力でも所持していない限りは。
つまりこの軍隊が戦った相手は人ではないという事だ。マナ溜りが近いし凶暴になった熊とでも戦ったのかな?
鎧は30以上はあるので1小隊くらいの規模はあったのだろう。それが熊相手に全滅か・・・恐ろしい熊だ。
血塗れの熊と名付けよう。
いるのかも分からない熊に思いを馳せていると、他とは違う上等な作りで、先端が地面に突き刺さっているハンドアンドハーフソードが目に入った。雨風にさらされているにしては錆一つない。とても綺麗な状態を保っていて、売ったらそれなりにお高そうである。薄らとマナを纏っているようだ。
魔術師に武器は必要ないが、これを持っていけば街を見つけた時にそれなりの額で売れるのではないだろうか?街を見つけるのも大事だが、金銭を得るのも重要だろう。金が無ければ何も買えないのは世の理である。
「若造、死にたくなけりゃ早う立ち去れ。」
どこからともなく聞きなれない言葉が聞こえてきた。辺りを見回すが誰もいない。訝しんでいると言葉が続く。
「聞こえとるのか?早うせんと奴が来る。死にたくなけりゃ立ち去れ。」
剣の側らに不自然なマナの流れが見える。よくよく目を凝らすと体が透けて見えるおっさんが立っていた。年の頃は50前後、短髪とは言えないくらいの髪を後ろへ流し、鼻下には豊かな髭を蓄えている。
見事な意匠の施された鎧を着ていて、その佇まいは凄腕の武人を彷彿とさせる。眉を顰め、眼光鋭くこちらの様子を伺っていた。
空耳でなければ今の警告は目の前のゴーストが言ったのだろう。しかし警告するゴーストなんて初めてだ。普通のゴーストは自我が無い。酷い時は襲い掛かってくる。
それにしても、今聴こえてきた言葉は・・・古代魔法王国語?
【古代魔法王国】
遥か昔の魔法信仰者達が起こした国。俺のいた世界では魔術の発展と共に廃れていった国で、現在ではその当時に築かれた遺跡などでしかその名残を見る事はできない。言語がとても複雑で、言葉1つとっても数多の表現があるという特徴的な言語を使用していた。
古代魔法王国語が使われている事からこの世界では古代魔法王国が残っているのか?となると古代魔法王国じゃなく魔法王国なのだろうか?それともこのゴーストが使っているだけで一般的ではないとか?
「若造、こっちが見えとるじゃろ?いい加減無視するのはやめい。さっきから視線が合っとるぞ。」
おっと、ゴーストが焦れてきたようだ。そろそろ相手をしてあげよう。
「悪いな、考え事をしてたんだ。それで何の用だって?」
「何を言ったんじゃ?お主、魔法王国語は話せんのか?」
やはり元の世界の言語は通じないらしい。歴史が大分違っているのだから。
「あまり喋り慣れていないんだ。これで通じるかい?」
「なんじゃ、喋れるでないか。なら今までの警告も聴こえておったろ。早う立ち去れ。」
「ああ、聞こえてたよ。んで奴が来るって誰が来るんだ?」
「何も知らんでここまで来たのか?奴とはこの領域の支配者。蘇りじゃ。」
「蘇り?聞いた事すらないんだけど、どんな動物?」
「動物ではないわい。ここは大昔の古戦場跡でな、その当時から住み着いとる化け物じゃよ。いくら切り刻んでも生き返る。ゆえに蘇りじゃ。よう分かっとらんのじゃが、何故か決まった範囲を徘徊しとる。恐ろしい身体能力でな、範囲内に立ち入った者には容赦なく襲い掛かりよる。」
「蘇りは魔術で倒せないのか?」
「魔術?魔法使いならもしかしたら倒せるかもしれんの。」
この反応だとこの世界に魔術という概念は無いのかもしれないな。むしろ魔法使いがいるという方が驚きだ。魔術では至れない領域にある魔法。その体現者がいるとは・・・見てみたい。
「その魔法使いはどこに行ったら見れるか知ってるか?是非とも見てみたいんだけど。」
「!!お喋りは終いじゃ!奴が来おった!早う逃げい!」
ゴーストはこちらを急かす様に喚きだした。背後へ振り返ると物凄い速さで一直線に向かってくる人影が見える。あれが件の蘇りなのだろう。
グリード君が元々いた世界に危険生物は動物しかいません。
マナが多い所だと稀にゴーストがいました。
詠唱破棄は出来て5節までです。魔法理論がちゃんとしてないと詠唱破棄は無理。
それ以上になると精神が焼き切れます。
10節=魔法 神の領域
9~8節=古代魔術 昔あったらしい
7~5節=大魔術 これが使えれば高位魔術師
4~3節=中魔術 中位魔術師
2~1節=小魔術 低位




