表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/25

第七話:こりゃ参ったな

「あれ、元気無いのね」

「「のね~」」

 折角目の前に天使がいるというのに気が晴れない。

「「お腹すいたの~?」」


 カーリー、ルナ、レナ。私の心を癒してくれる三人だ。あぁああかわいい! もうずっとここで暮らしたいよ……。


「んー、そうかな~?」


 どれだけ作り笑いをしても、やっぱり子供にはバレてしまうものだ。もう半分諦めている。絶対に認めないけどな。お膝の上に乗った双子ちゃんにほっぺたをぷにぷにびよーんと弄られていると、影がかかった。


「いや、なにしてんの?」

「ぷへ?」


 見上げると、カイが私をあきれた目で見ている。何故だ。


「子供たちの面倒を見ろってカイが言ったんじゃないか。だから皆寝ちゃった今この子達と遊んでいるのだよ」

「……なんか、うん。何でもない。カーリー洗濯物手伝ってくれ」

「はーい!」


 短い二つ結びをぴょんぴょん揺らして、カーリーは鳥の雛のようにカイの後ろをついていった。


「んー?」


 お日様の光が心地よい。確かにこれは昼寝時だ。子供ならではの体温も、私を眠気に誘う。だが、寝てはいられない。



 ≫≫≫≫≫



 今朝のことだ。私はギルドに顔を出したあと特に目的もなく彷徨いていた。混みいった街の路地裏へたまたま顔を突っ込んだ今日の朝、つんざくような悲鳴が轟いた。


「きゃぁああああああああ!!!」


 この街では、基本悲鳴が聞こえても手を差し伸べる人なんてそういない。自分が巻き込まれることを嫌うから。私も、自分の範囲外に手を出せる訳じゃない。


 助けるには、責任が伴うんだ。私はそれを痛いほどよく知っている。


 魔術具を二重に使って私は気配を消し、空高くへ跳び上がった。不可視の魔術具と重量操作の魔術具だ。

空から声のした方を見下ろすと、白い服を纏った女性が三人組のごろつきに襲われていた。


「……誰も居ないな」


 体重を重くして襲われている女性の隣に着地すると、気づかれぬようにまず女性を気絶させた。


 かくん、とその体から力が抜ける。


「良い子よ眠れ、ここは夢。決して気づかぬように」


 こっそり後ろ手で魔方陣を展開。睡眠ガスをばらまく。


「ぅ……」


 十秒もしないうちに、彼らはバタンと倒れ、盛大にイビキをかきはじめた。


「さて、と。この人……シスターか」


 シスター。聖職者。神に仕えるもの。主に協会で働いており、孤児院の面倒も見ている。だがおかしなことに、このシスターは荷物が少なかった。いや、何も持っていなかった。これは明らかにおかしい。


「流石に関わらない方が良いかな」


 私の警報が少しアラームを鳴らし始めた。シスターを抱いて再び高く跳び上がる。どこにシスターを預けようか。屋根の上を走り、再びギルドへ向かう。目指すはギルドの裏手だ。ギルドには守秘義務がある。よっぽどのことが無い限り、私のことを言いふらすなんてしないだろう。それに、ギルドへ忍び込んだことは、まだ気付かれていないはずだから。


 ギルド職員が使う宿泊室がある。そのベッドにシスターを寝かせると、私は窓から飛び出した。


「後は任せたぞギルド!」


 ひとまず、向かわなければならない場所が出来た。シスターのことはシスターに聞くのが一番だ。私は顔馴染みのシスターの元へ一直線に向かった。


「シスター!」

「うぉぅ!?」


 いつもシスターが居るはずの部屋には、やはりシスターが居た。


「いや、窓から入るなって言ってるだろー」

「ごめん。急いでたから」


 シスターは男勝りな人だ。おおざっぱな性格が人と触れ合うには丁度良いのだろう。シスターは誰にでも慕われている。


「で、どした?」


 シスターは紅茶を淹れながら聞いてきた。ティーポットからは飴色の綺麗な液が流れている。

「最近孤児とかシスターが襲われている事件ってある? 事件じゃなくても誘拐だとか行方不明だとか」


 これで何も無いなら良いけれど、ひとつの小さな事件は大きな事件へと繋がっていく。シスターは厳しい顔をした。


「現場でも見た? 孤児誘拐の」

「いや、シスターが襲われているのを、ね」


 やっぱり、何かあるのだ。


「子供たちは?」

「これから昼だよ。お前も食べていけ」

「ただ飯だ」

「おい」


 そんな流れで、子供たちと触れ合っていたのだ。情報を制するものはなんとやら。ここの孤児院には恩があるものだし。


「ん~」

「う~」


 すやすやと気持ち良さそうに双子も眠り始めたところで、彼らを毛布にくるめ、私は孤児院の庭へと降り立った。


「杞憂だと良かったんだけど……。やっぱりここも狙われてるよね」


 私の目の前には、顔を黒い包帯で覆った男がいる。全く、子供たちが泣き出したらどうするんだ。子供をあやしたことあるのかお前は。


「……誰も来ないぞ」

「あっそう」


 参ったな。増援は呼べなそうだ。私の本職、研究員なんだけど。


「一応、なにしに来たのか聞いてもいい?」

「子供を拐いに来た」

「シスターは?」

「他が足止めしている。もう一人の男もな」


 素直に返事をしてくれるってことは、相当自信があるらしい。


「こりゃ参ったな」


 どうやら、眠っているこの子達を守れるのは私だけのようだ。

ブックマーク、評価、コメントをもらえると嬉しいです!! 続きが気になるなぁって方は是非!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ