第七話:こりゃ参ったな
「あれ、元気無いのね」
「「のね~」」
折角目の前に天使がいるというのに気が晴れない。
「「お腹すいたの~?」」
カーリー、ルナ、レナ。私の心を癒してくれる三人だ。あぁああかわいい! もうずっとここで暮らしたいよ……。
「んー、そうかな~?」
どれだけ作り笑いをしても、やっぱり子供にはバレてしまうものだ。もう半分諦めている。絶対に認めないけどな。お膝の上に乗った双子ちゃんにほっぺたをぷにぷにびよーんと弄られていると、影がかかった。
「いや、なにしてんの?」
「ぷへ?」
見上げると、カイが私をあきれた目で見ている。何故だ。
「子供たちの面倒を見ろってカイが言ったんじゃないか。だから皆寝ちゃった今この子達と遊んでいるのだよ」
「……なんか、うん。何でもない。カーリー洗濯物手伝ってくれ」
「はーい!」
短い二つ結びをぴょんぴょん揺らして、カーリーは鳥の雛のようにカイの後ろをついていった。
「んー?」
お日様の光が心地よい。確かにこれは昼寝時だ。子供ならではの体温も、私を眠気に誘う。だが、寝てはいられない。
≫≫≫≫≫
今朝のことだ。私はギルドに顔を出したあと特に目的もなく彷徨いていた。混みいった街の路地裏へたまたま顔を突っ込んだ今日の朝、つんざくような悲鳴が轟いた。
「きゃぁああああああああ!!!」
この街では、基本悲鳴が聞こえても手を差し伸べる人なんてそういない。自分が巻き込まれることを嫌うから。私も、自分の範囲外に手を出せる訳じゃない。
助けるには、責任が伴うんだ。私はそれを痛いほどよく知っている。
魔術具を二重に使って私は気配を消し、空高くへ跳び上がった。不可視の魔術具と重量操作の魔術具だ。
空から声のした方を見下ろすと、白い服を纏った女性が三人組のごろつきに襲われていた。
「……誰も居ないな」
体重を重くして襲われている女性の隣に着地すると、気づかれぬようにまず女性を気絶させた。
かくん、とその体から力が抜ける。
「良い子よ眠れ、ここは夢。決して気づかぬように」
こっそり後ろ手で魔方陣を展開。睡眠ガスをばらまく。
「ぅ……」
十秒もしないうちに、彼らはバタンと倒れ、盛大にイビキをかきはじめた。
「さて、と。この人……シスターか」
シスター。聖職者。神に仕えるもの。主に協会で働いており、孤児院の面倒も見ている。だがおかしなことに、このシスターは荷物が少なかった。いや、何も持っていなかった。これは明らかにおかしい。
「流石に関わらない方が良いかな」
私の警報が少しアラームを鳴らし始めた。シスターを抱いて再び高く跳び上がる。どこにシスターを預けようか。屋根の上を走り、再びギルドへ向かう。目指すはギルドの裏手だ。ギルドには守秘義務がある。よっぽどのことが無い限り、私のことを言いふらすなんてしないだろう。それに、ギルドへ忍び込んだことは、まだ気付かれていないはずだから。
ギルド職員が使う宿泊室がある。そのベッドにシスターを寝かせると、私は窓から飛び出した。
「後は任せたぞギルド!」
ひとまず、向かわなければならない場所が出来た。シスターのことはシスターに聞くのが一番だ。私は顔馴染みのシスターの元へ一直線に向かった。
「シスター!」
「うぉぅ!?」
いつもシスターが居るはずの部屋には、やはりシスターが居た。
「いや、窓から入るなって言ってるだろー」
「ごめん。急いでたから」
シスターは男勝りな人だ。おおざっぱな性格が人と触れ合うには丁度良いのだろう。シスターは誰にでも慕われている。
「で、どした?」
シスターは紅茶を淹れながら聞いてきた。ティーポットからは飴色の綺麗な液が流れている。
「最近孤児とかシスターが襲われている事件ってある? 事件じゃなくても誘拐だとか行方不明だとか」
これで何も無いなら良いけれど、ひとつの小さな事件は大きな事件へと繋がっていく。シスターは厳しい顔をした。
「現場でも見た? 孤児誘拐の」
「いや、シスターが襲われているのを、ね」
やっぱり、何かあるのだ。
「子供たちは?」
「これから昼だよ。お前も食べていけ」
「ただ飯だ」
「おい」
そんな流れで、子供たちと触れ合っていたのだ。情報を制するものはなんとやら。ここの孤児院には恩があるものだし。
「ん~」
「う~」
すやすやと気持ち良さそうに双子も眠り始めたところで、彼らを毛布にくるめ、私は孤児院の庭へと降り立った。
「杞憂だと良かったんだけど……。やっぱりここも狙われてるよね」
私の目の前には、顔を黒い包帯で覆った男がいる。全く、子供たちが泣き出したらどうするんだ。子供をあやしたことあるのかお前は。
「……誰も来ないぞ」
「あっそう」
参ったな。増援は呼べなそうだ。私の本職、研究員なんだけど。
「一応、なにしに来たのか聞いてもいい?」
「子供を拐いに来た」
「シスターは?」
「他が足止めしている。もう一人の男もな」
素直に返事をしてくれるってことは、相当自信があるらしい。
「こりゃ参ったな」
どうやら、眠っているこの子達を守れるのは私だけのようだ。
ブックマーク、評価、コメントをもらえると嬉しいです!! 続きが気になるなぁって方は是非!!




