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第二十話:だって私たち

また3日ほど書けませんが……。七夕祭りについてあげたかったのでぜひ見てください〜!

「私のことが……憎い?」


 ユーリェは青い顔色で私にそう聞いてきた。憎くないって言ったら嘘になるし憎いと言ったらそれも嘘になる。それにそんなことを言ったらきっとユーリェは泣いてしまう。私の心情も知らずに、風はそよそよと葉を揺らしていた。

 マルシェはきっとここで憎いと答えるんだろうな。あの子は人生に絶望してたから。私は手のひらの球体を意味もなくいじる。私を見れなくなったのか、ユーリェは目を伏せた。


 私は今まで心の中に渦巻くこの感情を勝手にマルシェのものと断定してきたけど、それは果たして本当なのかな。本当に、マルシェのもの?


「どうでしょうね。私たちはあまりにも違いすぎる」


「違うと言われれば確かにそうだね。一度も姉妹らしいことをしていないのに、血が繋がっているだけ。それを他人は仲が悪いなんて勝手に非難する」


 私は今までユーリェを姉として見ていたのかな。ユーリェのことを、ヒロインとしてしか見ていなかったような、そんな気がする。冷静に冷徹に。けっして本心を悟らせないように。私はそうやって潰されないようにユーリェを避けてきた。


 ユーリェと目を合わせた。その目はさっきまでと違って少し光が点っている。


「やりなおせるかな、わたしたち」


 ユーリェもきっと距離が離れていた私のことを妹として見ていなかった。


「私はやりなおしたい。マルシェとたくさんおしゃべりをして花畑で花かんむりを作ったり、二人だけで屋敷を抜け出して色んなものを食べるの。お風呂に一緒に入って夜は同じベッドで手を繋いで、明日もまた遊ぼうねって」


 泣いていた。私を見て、私を思って。なんて綺麗なめなんだろう。私とは違う。私なんかとは全然。それでも、やりなおせるなら私も。


「二人で、姉妹になりたい」


「私も。2人でやり直そう」


「だって私たち」


「双子だもんね」


 手を取って、私たちは額を寄せあった。目を開ければ、同じようにユーリェも目を開けている。互いにおかしくてお腹を抱えて笑っていた。


 それから私たちは話をした。昔のことも、今のことも。未来のことも。


「えぇっ!? 冒険者なのユーリェ!?」


「ちょっとだけね? 戦うのは得意じゃないけど少し魔法が使えるから貴族の子女の護衛として指名依頼を貰っているの。お父様にも内緒なのよ? 貴族としての義務も果たしているから問題ないようだし」


 ユーリェは私と同じように冒険者になっていた。ランクは低いけれども、貴族の指名依頼でギルドの信用度はかなり高いらしい。名前はユリェン。私でも聞いたことがある名前だった。


「怪我とかしてないの? 大丈夫?」


「大丈夫! それにどちらかと言えば怪我をしそうなのはマルシェの方でしょう? 今はこんな風にベッドから動けないけれどいつもは女騎士みたいな格好をしてお姫様方から人気を得ているのだから! 前に出ているマルシェ程じゃないけど私もなかなかなのよ?」


「私はいざとなれば戦わざるを得ない状況にいたから、ずっと鍛えていたのよ。鍛えることは悪いことじゃないし、体や美容にいいから。おかげでちょっとやそっとじゃ太らない体になったもの!」


「ええ!? 私もそれ聞きたい……! 最近お肉が付いてきたかなって不安で……。ダイエットしたいの!」


「しましょうダイエット!! お肉は乙女の天敵だものね!」


 波長が合う相手で良かった。ユーリェは私が知る以上にお転婆で、本来は天真爛漫な性格。それを表では見せていないだけだった。


 チリリリリ。チリリリリ。


「あれ?」


 耳に付けているピアス型の通信魔術具から音が鳴った。この音はカイからの通信だ。


「もしもし、どうかしたの?」


「なぁにマルシェ?」


 きょとん、とした顔で私を見るユーリェとは裏腹に私の顔からは血の気がどんどん引いていく。凶報だ。耳に焦ったカイの声が入る。そして、それとともに剣を打ち合うような激しい金属音も。


「無事かヴェリス!? 無事なら今すぐ援軍を呼べ! くそっ、なんなんだこれは! お前の予想以上だぞ!! 倒せない!」


 シルビアとエギルの方はどうなのか。無事なようならカイのところに回ってもらった方がいい。そんな期待も呆気なく消し飛ばされる。


「シルビア! エギル! 何か変わったことは──


「どうも何も、なんだこれは! こんなもの見たことないぞ!」


「無理かもしれないわ! どうにか耐えてるけど、篭城して助けを待つ方が無難よ!」


 篭城して助けを待つ方がいい。そんな結末が出るほどの相手なのか。まずい。彼らだけに任せるのは得策じゃなかった。


「……マルシェ?」


 きゅっと締まった彼女の顔は肉が落ち、今この場から逃がすのは危険だ。それは元々予想していたことだけど、この部屋に留まらせるのも危険すぎる。


 私はユーリェの両手を取った。


「ユーリェ。これから何があっても、貴女は自分の身を守って。貴女がいることが私たちの希望だから」


「……何か、起きてるのね? 私に関わるような何かが」


「そう。貴女がいなくなれば私たちの負け。だから、決して自分の身を投げ捨てないで。例え皆が生き残っても、貴女がいないだけで私たちの負けになるの」


「大将首が私なのは気が重いわ。でも、司令塔がマルシェなら少し安心。あなたの言うとおりにするわ。今の私が足でまといなのはよく分かるもの」


「これを、ユーリェに」


 私の持っていた球体。ユーリェを守るためのアイテムを、私は差し出した。


「大丈夫。だからマルシェも、無理をしないでね」


 うん、と頷いて私は球体の外へ出た。外へ出れても中へ入れない。もう安全な場所には戻れない。ああ、お嫁さんを置いて戦いに行く彼らはこんな気持ちなのかな。


「カイン。ユーリェをお願いします」


「お任せを。ご武運をお祈りしております」


「私も。カインが無事であることを祈るわ」


 目指すは屋敷の西。カイのいる森に面した場所へ。


「間に合って……!」



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