終わらせ屋
2019年。
平成の終わりに、小説家になろう界隈で、以下の新しいルールが設置された。
投稿した作品で、ブックマークの付いているものは1年以上放置してはいけない。
これを破った者は、10万円以下の罰金、及びアカウントの3年以上の利用停止を課す。
「10万なんて、もってねーよ!」
これを受けて、なろう作家たちは、エタった作品をどうにか完成させようとするが、一度情熱を無くした作品は中々手に付かない。
そんな中、一人の男が立ち上がった。
「そしたら、すぐにエンディングコースで」
とあるなろう作家が、目の前の男に諭吉を渡した。
万札を受け取ったひげ面の男は、再度このコースでいいのか確認する。
「このコースで間違いないですね?」
「はい、今は別な作品を書いてるんで。 あと、あんまり思い入れもないし」
ははは、と自虐的に笑う作家。
ちなみに、このひげ面の男、終わらせ屋と呼ばれ、長いこと更新されていなかった作品を終わらせることを生業とする。
一番安いコースは1万円で、それ以外にも普通のエンディングコース、怒濤のエンディングコース、感動の大団円コースがあり、金額の桁が変わってくる。
ひげ面の男は、小説のラスト数行を読み終えると、目を閉じた。
ここは、終わらせ屋のイメージの中。
巨大な扉の前に、数人の男女がたむろしている。
「いつになったら中に入るんだろ」
とんがった帽子を深々とかぶった女性が言った。
「まあ、ここじゃ腹も減らないし、いんじゃね?」
弓を担いだ男が欠伸しながら言う。
すると、剣を担いだ男が叫ぶ。
「いい訳無いだろ! まだ村を出て最初のダンジョンのボス部屋だってのに、もう半年以上この状態だ」
「魔王に辿り着くのはいつだろねー」
つまらなそうに石を投げる女性。
すると、突然暗闇からひげ面の男が現れ、地面に何かを投げ捨てた。
「こいつを頭に当てて、引き金を引け」
剣の男の足元に、黒い物体。
「な、何だ、お前っ」
剣を掴み、男を警戒する。
「おっと、俺は敵じゃねーよ。 この作品の作者から言われてここに来た、いわゆる助っ人だ」
「助っ人? ここで新しくメンバー補強するの?」
「やっと物語が進むのか」
帽子の女子、弓の男が安堵した。
「なるほどな。 作者、気合いをいれてかなり強力なボスを準備したって訳だ。 で、こいつは俺を強化するためのアイテム」
剣の男が頭に黒いものを当て、引き金を引いた。
ガアン、という音と共に、血が噴き出す。
弾丸が脳天をぶち抜いた。
「……は?」
「キャアアアアアアアーーーッ」
剣の男が倒れる。
弓の男は状況が理解できず、帽子の女が悲鳴を上げる。
ひげ面の男は、完、の看板を暗闇から持ってくると、地面へと突き立てた。
終わり
あなたの元にもやってくるかも?