君は天然
「自己紹介。しなきゃですよね。」
彼女は僕と握手をしたまま照れたように笑ってみせる。
「そう、ですね。」
僕はその可愛らしい顔に見惚れてぎこちなく返事をした。
普段人が少ない道と言ってもスーパーに向かう人はどの時間帯でもいるものらしい。
握手をして固まっている僕達を不思議そうに見ながら通り過ぎていく人達がちらほらと目の端に映る。
「このままだと変に思われるし近くの公園でも行きませんか?」
僕が発言するまで他人の視線に気付かなかったのだろうか。彼女は周りを軽く見回してハッとしたように
「ほんとだ…」
顔を真っ赤にして下を向く彼女。
目に掛かりそうな長さの前髪だったからだろう。
下を向くと全くと言っていいほど目が見えない。
少しすると彼女はぱっと顔を上げ僕としっかり目をあわせながら
「公園、連れて行ってもらえますか?」
このとき僕は思った『ちぐはぐ』この言葉が彼女にしっくりくると。
目は僕をしっかりと捉えているのに声はまるで小動物にでも話しかけてるかのようなか弱さ…いや、優しさと言うのだろうか。
今にも壊れてしまいそうな声だった。
そんな彼女を見てつい笑ってしまいそうになったがグッとこらえて
「はい。行きましょうか。」
と彼女の手を引く。
公園までの道を歩きながら軽く話をする。
「あ、僕…平田辰也って言います。本を読むのが好きであとは空を眺めるのも好きです。貴方の名前は?好きなものとかも聞いていいですか?」
緊張していたのだろうか。
急に話しかけられて吃驚したんだろうか。
「いぇぁ?!」
となんとも言えない声をあげて彼女が僕を見る。
「私は、結城菫です。猫が好きです。あと…好きなものは、えっと…」
僕がふたつ好きなものを言ったからだろう。
一生懸命もうひとつの好きなものを探しているようだ。
「あ!」
あたふたとしていた彼女が何かをひらめいたような顔をした。
もうひとつの好きなものは何だろうと僕はわくわくしながら彼女が口を開くのを待つ。
やはり女の子らしい苺やぬいぐるみと言うのだろうか。
それとも意外にスポーツや車などのボーイッシュなものが好きなのだろうか。
そんな僕の予想はすぐに否定された。
「私、絆創膏の香り好きです!」
斜め上の回答というか、独特にも程があると思う。
絆創膏の香りが好きな女子なんて初めて聞くぞ。
あと絆創膏は「香り」と言うより「匂い」だろ。
心の中ではツッコミを入れながらも僕は笑顔で
「そうなんだ。珍しいね。」
と返した。
自分でもわかるほど口の端が引きつっていたがこればっかりは仕方ないと思う。




