初任務へGO!
ギルド本部へ着くと既にフレンがわたしを待っていた。
色素の薄い人達の中でフレンの燃えるような赤髪はとても目立つ。
それは黒髪のわたしも同じなのだろう。
フレンはすぐにわたしの姿を見つけると、
「おせーぞ」
と、不機嫌そうに睨みつけてきた。
「ごめんね、行こう」
わたし達は依頼受注のカウンターへ向かう。
「アキコ・ナガノ、フレン・オーラルドのペアですね。詳細をお送りします」
受付の女の人はわたしたちのブレスレットに情報を送った。
わたしとフレンは受付を後にして、ついたてで仕切られただけの打ち合わせスペースで依頼を確認する。
わたしたちに回ってきた依頼はエントリーした内の一つで『レベル3任務 光の国の薬草園に魔獣の目撃情報あり。駆除せよ』というものだ。
目撃された魔獣は飛翔型が2体。
野生の魔獣だと思われるが、闇の国が差し向けた可能性もあるので、念の為確認せよとのこと。
そして、重要な報酬は180ポイント。
ペアで山分けになるので1人90ポイントもらえる。
90ポイントあれば普通の定食が食べられる……!
ぐぅ、とお腹が小さく鳴った。
魔獣が出現したという薬草園の場所は光のギルドから約1000キロも離れている。
闇の国との間に存在する中立国の近くであるとのことだった。
遠く離れた場所でも転移の能力を持った人間が光のギルドに待機しているので、飛ばしてもらえる。
なお、ギルドから依頼の場所まで距離が500キロ以上なら経費としてタダで飛ばしてもらえるらしいのだが、500キロ以内であれば自分のポイント(お金)を使わないと転移させてもらえないらしい。
お金を払いたくなければ、自力で行けとのことだ。
なんてケチな!
そういうわけで、お金のないわたしにとっては離れた場所であったことは幸いであった。
「早速行くぞ」
依頼に目を通すとフレンは立ち上がり、わたしを待つことなくさっさと歩いて行ってしまう。
慌てて追いつき、わたしはフレンと並んで歩く。
ギルド本部から出ようとするところで、わたしと同部屋であるカーラとすれ違った。
カーラは光の国の人であり、例に漏れずわたしを嫌悪している。
その上、五星に近いと言われるノイシュと光の人でないわたしが知り合いだということが気に食わないらしく、余計に嫌われていた。
会えば嫌味ばかり言われるので、わたしのストレスの一因だ。
すれ違いざま、
「あら、お似合いのペアね」
と、嘲るように言ってくすくすと笑う。
フレンがギロリと睨んだが、それにも怯む様子もなく去っていってしまった。
わたしたち契約者は女性男性に別れた二人部屋に入れられる。
一人部屋を勝ち取るにはレベル10まで上がらなくてはならない。
実力主義の世知辛い世の中である。
気を取り直して転移室へと向かう。
フレンが依頼を見せると、担当者が座標を設定して飛ばしてくれる。
魔法陣らしきものが描かれた中心に立つと、すぐにぐにゃりと世界が歪む感覚が襲ってきた。
自分の身体がまるで軟体動物かのようにねじ曲がるような気持ち悪さにぎゅっと目を閉じる。
しばらくして自分の身体が正常に戻る感覚があり、目を開けるとそこは既に別の場所。
屋根付きの回廊に立っていた。
「うえぇぇ、気持ち悪……」
わたしはあまりの気持ち悪さにへたりこむ。
これは乗り物酔いの比じゃない。
あまりものを食べていないので出すものがないのが幸いだが、そうじゃなければすべて吐き出していただろう。
「さっさと行くぞ」
フレンは慣れているのか、わたしをちらりと見下して歩いて行こうとする。
「まって……」
わたしは慌ててフレンのズボンの裾を掴んで引き止めた。
冷ややかに見下されているのに堪えられず、よろよろと立ち上がる。
だけど、身体がふわふわとしていて立つことすらままならない状態だ。
「お前な……飛べるんだろ? なら、転移酔いになんてなるなよ」
「自分で飛ぶのとこれは別物だよ……うぇっぷ」
胃が非常に気持ち悪い。
フレンに呆れた顔を向けられている。
今回の任務でフレンに見限られるわけにはいかない。
早く立ち直らなくては。
「……まぁいい。まだ魔獣の気配はないからな」
「え? わかるの?」
きょろきょろと周りを見渡してもわたしにはよくわからない。
さわさわと風が吹いていて、とても悪いものが出てくるとは思えない気持ちのいい天気ではあるけれど。
「……俺にはわかる。鼻が効く」
そうか、フレンは獣人。
たしかに鼻が利きそうだ。
「お前を頼るつもりはまったくないが、一応能力を教えろ」
「ああ、うん」
そういえばちゃんとフレンに伝えていなかった。
わたしは真っ直ぐ立つためにフレンの袖の裾を掴みながら、
「わたしの能力は重力を操ること。それで飛んだり、フレンに体当たりしたりできたの」
と、説明する。
「重力? 飛行能力じゃなかったのか。だとしたら、まったく使いこなしているようには見えなかったが」
「ぐっ」
痛いところを突かれた。
だけど、ここでそれを認めるわけにはいかない。
「それは実戦を見てほしいかな」
「ふん」
フレンは鼻を鳴らしてわたしから目を逸した。
「フレンは炎を扱える能力ってことでいいのかな?」
「俺の能力なんか言うまでもないだろう」
「ごめんね、わたしはこの世界のことよくわからないから、一応教えてくれるとありがたいんだ」
「あァ……」
何度か瞬きをして顔をしかめてから、
「俺は獣人族の火龍だ」
と、教えてくれる。
「かりゅう……」
「火龍」と変換していいのだろうか。
獣化したフレンはオオカミのような姿に見えたけれど、炎を吐いていたからそう呼ばれているのかな?
他にも獣人族はいるのだろうか。
いろんな疑問が浮かんでは消えていくけれど、不機嫌そうなフレンにこれ以上聞くことは躊躇われた。
まだ少しフレンのことは怖いし。
「転移酔いは落ち着いたか? 行くぞ」
そう言われてみれば外の空気に触れているからか、気持ち悪さはいくぶんか落ち着いている。
わたしは頷いてフレンの後に続いて回廊を歩き始めた。